なぜ今、LCAなのか?~気候変動リスクの高まりPhoto AC

ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment、以下LCA)とは、製品やサービスのライフサイクル全体(「ゆりかごから墓場まで」)における、投入資源、環境負荷およびそれらによる地球や生態系への環境影響を定量的に評価する方法で、その評価結果に基づき、製品設計や原材料の選択、製造工程、輸送手段や利用方法などを変革し、ライフサイクル全体で環境負荷を低減させることを目的としている。その意味で、あらゆる産業、あらゆる製品・サービスが関わり、国の政策にも多方面で関係してくる。書籍『LCAが変える産業の未来』では、なぜ今、LCAへの注目が高まっているのか、現在、LCAに関してどのような動きがあるのか、そしてそれをどのように企業活動・企業経営に組み込み、活かしていくかを解説している。

気候変動対応のためのLCAに注目

 地球環境問題が重要性を増してくるなか、30年ほど前から気候変動対応の国際的枠組みが始まっている。その1992年に採択され、1994年に発効し、現在198カ国・地域が締結している「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」の締約国によって2020年までの枠組みを定めたものが「京都議定書」で、2020年以降の枠組みを定めたものが「パリ協定」である。

 また、この条約への賛同国が参加するCOP(Conference of the Parties)の「COP26」(2021年秋に開催)においては、1988年に国連環境計画と世界気象機関によって設立されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が第6次評価報告書第1作業部会(自然科学的根拠を担当)報告書を発表し、温暖化を1.5℃で止めるには2050年頃には二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロとすることが必要と評価している。これを受けて、パリ協定の「1.5℃努力目標」に向けた21世紀半ばの「カーボンニュートラル」達成と、その経過点である2030年に向けた野心的な気候変動対策を締約国に求めることが決定され、取り組みの加速が促されている。さらに、パリ協定第6条に基づく温室効果ガス排出削減量の国際移転市場メカニズムの実施指針も合意に至り、パリ協定のルールブックが完成した。

 こうした動きのなかで、資本市場においても、気候変動に対する企業の取り組みを評価する NGO(非政府組織)「CDP(旧 Carbon Disclosure Project)」がプレゼンスを増し、また、国際的な環境NGOである「The Climate Group(TCG)」が、CDPとともに運営する「RE100」のもと、再生可能エネルギー電力100%にコミットする企業が結集し、エネルギー移行を加速させる活動を活発化させ、政策立案者および投資家に対してアピールしている。

 並行して、気候変動対応をリードする欧州では、欧州委員会が2019年12月に「欧州グリーン・ディール」を公表後、2021年6月には、2050年までの「気候中立化」と中間地点の2030年に「55%削減」を法的拘束力のある目標とする「欧州気候法」を採択し、7月に施行した。その政策指針提言文書「Fit for 55」では、2030年の「55%削減」に向けて、法規制や税制などを適合させる必要性が唱えられることとなり、これを受けて排出削減努力の一層の加速が求められることとなった(エネルギー同盟状況報告書では、1990年比での2030年までの排出予測は、決定済み対策織り込み後で41%の削減となり、目標の55%の削減には届かないため、加速が必要)。

 こうしたカーボンニュートラル化の動きのなかで、特に気候変動対応のためのLCAとしてのカーボンフットプリントも注目され、製品やサービスのライフサイクルを通した対応の重要性に対する認識が、産業や国を超えて高まっている。

なぜ今、LCAなのか?~気候変動リスクの高まり