「ロシア版シリコンバレー」を目指していたら
ロシアは今日よりはるかに成功していた

――ロシアは大規模な経済制裁を科される前から、グローバル化の点で後れを取っていました。

ダイアモンド ロシアだけではない。さまざまな国々で、多くの人々がグローバル化から取り残されて失業や有期雇用、経済的苦境といった問題を抱え、人生やキャリアの見通しが立たなくなっている。例えば、グローバル化や経済の極端な金融化などで空洞化した米国の製造業もそうだ。

 欧米や日本など、社会全体がグローバル化に取り残されていない国々にも、経済的に苦しい人々は大勢いる。どのような経済的・社会的政策を導入すれば、そうした人々にセーフティーネットや支援、職業訓練を提供できるのかを考えなければならない。

 確かにロシアはグローバル化の点で、成功できなかった。だが、それは、自国の選択が招いた結果だ。

 ロシアにも、テックのエンジニアやコンピュータ科学、ソフトウエア開発の専門家が数多くいるが、プーチン大統領が彼らを動員して米国政治への介入やデマ拡散を行うのではなく、「ロシア版シリコンバレー」の構築を目指していたら、ロシアは今日よりはるかに成功していたはずだ。武力行使の代わりにテック分野でイノベーションを起こし、他国と競い合い、経済開発に専念していたら、状況は大きく違っていた。

――第11章には、次のような一文があります。「慢性的に腐敗しているウクライナの政治システムに単に資金を投入するだけでは、民主主義にとって有望な賭けとは言いがたい」(注:2019年6月に原著が刊行された『侵食される民主主義』は、同年5月まで続いたポロシェンコ政権を念頭に書かれている)。しかし、ゼレンスキー政権下でも汚職は一掃されておらず、ウクライナは政治システムの改革途上にあります。

 一方、西側諸国は、国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア中央銀行排除なども含め、厳しい対ロ経済制裁を続けています。西側によるウクライナへの大規模な支援について、どう思いますか?

ダイアモンド まず言っておきたいのは、ゼレンスキー大統領が、ポロシェンコ政権下で始まった多くの改革を続行・加速させ、会計処理の向上や(政府機関などの)汚職監視・摘発を行い、統治の質を高めてきたことだ。

 もちろん、西欧や日本、台湾、米国のような自由民主主義体制のレベルにはまだ至らないが、かなりの進歩だ。私たちはウクライナへの財政支援を通し、もっと責任を伴うメカニズムや統治改革が実現されるよう後押ししなければならない。

 ひるがえって西側諸国の厳しい対ロ制裁は、ロシアがウクライナにそれだけひどい武力侵略を行っていることの裏返しだ。第2次世界大戦以降、これほどあからさまでショッキングな他国への武力侵略はなかった。人権や法の支配を侵害している。だからこそ、私たち先進民主主義国家が団結したのだ。

 第2次世界大戦の終結とともに、他国を侵略できるという規範は闇に葬られたと思っていた。他国に軍事侵攻し、制圧することなどできないという根本原則が築かれたと思っていたのだが。

――プーチン大統領が失脚する可能性はあるのでしょうか?

ダイアモンド 何とも言い難いが、彼は今も政権をまとめ、権力を維持している。近いうちに追い落とされるとは思わない。ロシア軍がウクライナ戦争で崩壊するようなことがあれば、失脚する可能性もあるだろう。だが実際のところ、プーチン大統領は数多くの新鋭部隊を動員し、「勝てない」戦争を続けている。

 たとえ勝利はつかめなくても、敗戦だけは避けたいはずだ。となれば、彼がすぐにでも政権の座を降りるようなことになるとは思わない。

(後編へ続く)

ダイアモンド氏が語る「揺れる国家」ウクライナ、民主主義にとって2023年最大のリスクとは? 中国の台湾侵攻はあるのか? 2024年米大統領選の見通しなど、2月27日(月)公開のインタビュー後編「ウクライナ侵攻から1年、民主主義陣営の団結は「独裁国家」へ何をもたらしたか?米国大統領選挙の有力候補は?米専門家に聞く」もぜひご覧ください。