どこにもそんな説明はないのだが、5年前の習の「当選」を伝える新華社記事を読み直すと、こんな描写があった。
《同自治区の代表たちは、習近平総書記が今回、国境少数民族地区から出たことは、共産党中央指導部の新たな姿勢を印象付けるものだと語る。庶民や群衆と密接につながることで、党内政治が強化、改善され、良好な政治生態を作り出し、貧困脱出策の力強い推進を印象付け、「一帯一路」の建設など国の十大戦略に大きな意味を持つ》
5年前、「一帯一路」政策は「海と陸のシルクロード」政策とも形容され、海路と陸路でそれぞれ中国とヨーロッパを結び付け、その沿線との交易、交流を促すものとして、中国のトップ政策の一つだった。貧困の撲滅もまた、習近平就任時の「悲願」ともいわれる重要達成目標の一つで、その達成期限とされていた2020年末に達成宣言を行った。
だが、この5年間で中国は、そして中国をめぐる世界の動きは大きく変わった。厳しい新型コロナ対策を一転して、今年1月にやっと3年ぶりに国際往来を再開した今の中国にとって、海外をにらんだ「一帯一路」よりも、まずは国内経済の立て直しが喫緊の課題である。習近平の「地元」が国境少数民族地区の内モンゴル自治区から、東部沿岸地区の経済発達地域である江蘇省に変更されたのも、5年前と同じような政策的な意図があるのではないか。
習近平以外の指導者も、
まったく無縁の土地から選出されていた
その答えを求めつつ、あれこれ報道を読んで分かってきたのは、今回の改選では習以外の指導者層もまた全国各地の、彼ら自身にとって無縁の地に散らばって選出されているらしいことだ。
香港紙「明報」によると、この3月の全人代で李克強の後任として首相に就任するとうわさされる李強は浙江省出身だが、やはり赴任経験のない南西部の雲南省で人民代表に選出されている。その他の指導者たちも、四川省や貴州省、青海省(以上は南西部)、遼寧省(北東部)、福建省や山東省(東部沿海部)……と、それぞれの出身地や経歴とは関係のない地域で人民代表に選出されているようだ。
さらに明報の報道では、昨年開かれた共産党第20回大会(党大会)に向けた党員代表選挙でも、習近平は広西チワン族自治区から、李克強は甘粛省……とこれまたそれぞれの経歴とはまったく関係ない地域から党員代表に選ばれているという。今回の人民代表選挙と違う点としては、党員代表選挙では農村振興や少数民族政策の重点地区がその選挙区に選ばれていたことだ。つまり、振り返ってみると、わずか半年のうちに習近平は南西部の広西チワン族自治区の党員代表に選出され、東部沿岸部の江蘇省で人民代表に選出されたことになる。我々の「選挙区」の概念とは大きく違う。
昨年の党大会では党指導部がほぼ一新されたが、主に浙江省や上海市にバックグラウンドを持つ、習の「子飼い」が多く党中枢に抜擢されたことが話題になった。今回の人民代表選挙ではその「子飼い」たちを東西南北の地区から人民代表に選出させる形になっており、それらの地域と党指導部との関係性を意識させるのが狙いなのかもしれない。