作家の藤沢周平は
旧制鶴岡中学OB
日本海に面し、人口12万人の山形県鶴岡市。江戸時代、庄内藩酒井家14万石の城下町だった。その城跡に隣接する県立鶴岡南高校は、2024年4月からは併設型中高一貫校に衣替えし、校名も致道館高校になる。
江戸時代の庶民や下級武士の哀歓を描いた作品で、多くの中高年からの共感を得た作家の藤沢周平が、鶴岡南高校の前身・旧制鶴岡中学の夜間部出身だ。
藤沢は、鶴岡市郊外の農村に生まれ育ち、昼間は印刷会社で働きながら夜間中学に通った。山形師範学校(現山形大学)を卒業後、鶴岡市内の新制中学教員や東京で業界紙記者をしながら、小説を著し、1973年に『暗殺の年輪』で直木賞を受賞した。
藤沢の時代小説や映画では「海坂(うなさか)藩」というのがしばしば登場する。藤沢はこの架空の藩を、庄内藩と鶴岡をモチーフにして描いている。庄内を舞台にした作品は10余作に上る。『たそがれ清兵衛』『蝉しぐれ』など、テレビドラマや映画化されて97年の没後にファンがさらに増えた。2010年には、鶴岡市内に藤沢周平記念館が開館した。
藤沢より2年前の25年に、小説家・文芸評論家の丸谷才一が、鶴岡市内の開業医の次男として生を受けている。旧制鶴岡中―旧制新潟高校―東京大と進み英文学を研究した。68年に『年の残り』で芥川賞を受賞、11年には文化勲章を受章した。12年10月に死去した。
卒業生には藤沢のほかもう1人、直木賞作家がいる。99年に『王妃の離婚』(集英社)で受賞した佐藤賢一だ。欧州を舞台にした歴史小説を多く描いている。
佐藤は68年に鶴岡市内で生まれ、鶴岡南高校―山形大教育学部―東北大大学院文学研究科西洋史学修士―同フランス文学博士課程と進んだ。大学院で学んだ知見を生かし、史実を基にした奇想天外なストーリーの作品が多い。
佐藤は『ナポレオン』(全3巻、集英社)で、20年度の第24回司馬遼太郎賞を受賞した。
実は翌21年度の第25回司馬遼太郎賞の受賞者も、鶴岡南高校の卒業生だ。佐藤賢一より4学年先輩の石川禎浩(よしひろ)で、『中国共産党、その百年』(筑摩書房)が受賞作だ。
石川は鶴岡南高校から京都大文学部に進み、現在は京大人文科学研究所教授だ。同じ高校の卒業生から2年連続で受賞者が出る――などというのは、そうそうあることではないだろう。
絵本作家の江口百合子、29歳で死去した漫画家のしんがぎんがOG・OBだ。