実は産業医を多く抱えているのは、製造業に属する企業だ。日本製鉄や日立製作所などがそうだが、大所帯の拠点を多く保有するためだ。もともと、産業医制度が工場要員などの健康管理を目的にスタートしたという歴史的経緯もあり、大企業には産業医を確保するコネクションがある。だがその一方で、中小企業や地方企業は産業医の選任に腐心しているのが実際のところだ。特集『名ばかり産業医の闇』(全5回)の#4では、その驚きの格差の実態に迫る。(ダイヤモンド編集部 山本 輝)
有能な産業医は取り合いに
中小・地方企業で広がる格差
「人材が全く採れない」――。ある上場企業の産業保健担当の幹部は頭を抱えていた。健康経営を強化するという会社の方針もあり、専属産業医の充実を図ろうと採用活動を積極化した。しかし、一向に応募がない。
この幹部は、産業医科大学をターゲットにリクルート活動を行っていた。同大学は産業医のプロフェッショナルを多数輩出するメッカである。だが、産業医科大は、製造業など古くから産業医を抱えている企業との“パイプ”があり、卒業生の多くがそうしたOBのいる企業へと勤務していく。「新参企業が突然募集を出して採用できるほど、甘くはなかった」(幹部)。
産業医資格を持つ医師は全国で約10万人。だが、そのうちスキルのある医師はわずか数千人程度であることを、本特集の#1『名ばかり産業医1万人跋扈のカラクリ、「本物はたった1200人」で名義貸しも横行の呆れた実態』で紹介した。
そうした状況であるから、当然のことながら有能な産業医は“取り合い”になっている。その結果、産業医を獲得するコネクションのある大企業と、そうではない中小企業・地方企業との間での「採用力格差」が鮮明になっている。
一体、採用力があるのは、どのような企業なのだろうか。