日本でもファンが多い世界最高峰の楽団、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団。実は、その運営手法は音楽界でも極めて珍しい。民主主義を徹底し、演奏プログラムや奏者の報酬を正会員の「投票」で決めている。自ら意思決定を行うことで、180年間さまざまな苦難を乗り越えてきたのだ。渋谷ゆう子氏の著書『ウィーン・フィルの哲学』(NHK出版)から、その成り立ちと実態をひも解いていこう。今回は、同楽団の知られざる「採用」について解説する。完全実力主義にもかかわらず、意外にも血縁者が多かった理由とは?
オーディションは完全実力主義
今回は、オーケストラ奏者になる手続きを詳しくみていこう。2023年現在ウィーン・フィルは正会員(演奏者)147名で構成されている。ウィーン・フィルの奏者になるにはまずウィーン国立歌劇場管弦楽団員のオーディションを受け、国立歌劇場管弦楽団員にならなければならない。
歌劇場の奏者となれば、ウィーン・フィルのオーディションを受けることができるというわけだ。欠員が出なければオーディションもないので、その機会は非常に限られたものである。ウィーン・フィルへの入団は任意なので、オーディションを受けるかどうかは奏者に委ねられている。
ただし、オーディションに合格しても、3年程度の待機期間がある。この期間にエキストラとしてコンサートやツアーに参加しながら、団員として認められるまで待たなければならない。オーディションそのものも狭き門だ。
合格者なしという結果になることもよくあり、正会員空席のままエキストラに演奏を任せることも多い(他の奏者、特に同じ楽器の仲間が納得できる奏者が現れるまで正採用なしが続くことになる)。
長期にわたって正会員になれずに待機のままという奏者もいる。試用期間が終了したのちに本採用にならない場合もある。
厳しく狭き門である一方で、元コンサートマスターであるライナー・キュッヒルのように、その演奏能力の高さを他の団員が直ちに認め、総会に諮られた場合、国立歌劇場入団と同時にウィーン・フィル奏者になれる者もいる。キュッヒルは当時21歳であった。あくまでも実力主義であり、他の奏者に認められるかどうかが大きなポイントなのだ。