米国のインフレの収束はいまだ見通せない。それゆえ、米国の政策金利の最終到達点も見えてこない。インフレや金利動向は金相場に大きく影響を与える材料だ。これらの材料に不透明感が強い状態が続けば、金相場の方向感も定まらないことになる。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)
11月は米利上げ減速観測浮上で
1700ドル台後半に
金相場は、昨年9月28日に1トロイオンス当たり1613ドルと2020年4月以来の安値を付けた。10月下旬や11月上旬にもその安値に近づく場面があったが、その後は、上昇基調となり、今年1月中旬には1900ドルを上回り、2月2日には1959ドルと22年4月以来の高値を付けた。その後は下落し、足元は1800ドル台半ばで推移している。
振り返ると、昨年11月1~2日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では予想通り0.75%の大幅利上げが継続される中、声明文はややハト派的と受け止められ、長期金利低下やドル安が進み、金は買われた。
だが、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長の会見では「利上げ停止を考えるのは時期尚早」とタカ派的な発言をしたため、結局、米金利は上昇、ドルは買われて、金は売られた。11月3日には9月の安値に迫った。
しかし、4日は上昇した。昨年10月の米雇用統計が懸念されたほど景気の強さを示す内容ではなかったことや、中国でゼロコロナ政策緩和観測が報道による投資家のリスク回避姿勢の後退がドル安につながったことが金相場を支えた。
8日には上昇幅がやや大きくなり、1700ドル台を回復した。米中間選挙が注目される中、長期金利低下やドル安が進んで金の支援材料になった。暗号資産の相場下落が金への安全資産需要につながったとの指摘もあった。
10日は、昨年10月の米CPI(消費者物価指数)が市場予想を下回ったことを受けて、FRBが利上げペースを減速させるとの見方が強まり、金は1750ドルを上回った。
15日は、ミサイルがポーランド領内に着弾して2人が死亡したと報じられて地政学リスク懸念が高まったことが買い材料となった。
その後、ポーランドに着弾したミサイルがウクライナの防空ミサイルとされたこと、FRB高官のタカ派的な発言が続いたこと、中国での新型コロナ感染拡大がリスク回避のドル買いにつながったことなどから金は1700ドル台前半に下落した。
30日には、パウエルFRB議長が講演で、12月のFOMCで利上げ幅を縮小する可能性を示唆したことを受けて、金の上昇幅がやや大きくなった。
次ページ以降、22年12月以降の相場を振り返りつつある金相場の今後の見通しについて検証していく。