米株式相場は過去半年、インフレや経済について2022年8月に楽観、9月に悲観、10~11月にじわり楽観、12月に悲観、23年1月に楽観、2月に警戒と、見方をほぼ月替わりで変転させてきた。しかし、実体経済がこれほど目まぐるしく変化しているはずもなかろう。実は23年は、株式市場の心象風景の明暗を振らせる事情がある。(楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー TTR代表 田中泰輔)
相場心理の月ごとの変転は
ファンダメンタルズの変化を意味せず
米株式相場は、コロナ禍下の2020~21年に超金融緩和を受けて、急な「上り坂」を楽しんだ。しかし、インフレ高進の22年には、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ加速を恐れ、急な「下り坂」に転じた。
23年は引き続き下り坂の途中と判断するが、少々様相が異なる。インフレ下げ渋り、金利高止まりの加減が判然とせず、景気悪化の時期と深度も見方が定まらない時間が長そうだ。このため、相場には不安定に高下する「まさか」が多発するかと、警戒している。
先行き不透明になるほど、投資家はストレスを募らせやすい。うまくすれば、下り坂の中腹で揺り返しがあり得る。しかし、足を踏み外して転がり落ちるようなリスクも排除できない、そんなステージだ。
厄介なのは、心理であれ何であれ、相場をいったん動意づけると、その値動きを追認する材料解釈が強化され、相場のうねりを大きくし、それがまた、心理をあおり、相場を増幅する好循環、悪循環になりやすい。
今年1月の米株式相場は、強弱材料がマチマチだったが、ある意味「まさか」の巡り合わせで堅調に傾いた。それが2月になると一転し、上値の重い調整局面になった。
過去半年、大局としては下り坂であった過程においても、株式相場は、8月上中旬に楽観、9月悲観、10~11月じわり楽観、12月悲観と、ほぼ月替わりで変転してきた。
ファンダメンタルズがこれほど目まぐるしく変転しているがゆえでないことは容易に推察できるだろう。まさに、相場が投資家行動との相乗作用で波動し、その相場波動に沿って、経済・インフレ・金利への楽観と悲観の心象風景ばかりが振れた面が強いといえる。
次ページ以降、株式相場がファンダメンタルズの変化との相関なしに揺れ動いてきたことを検証していく。