ロシアによるウクライナ侵攻は
自由民主主義陣営の目的意識を取り戻した
米スタンフォード大学フーバー研究所シニアフェロー兼同大学フリーマン・スポグリ国際問題研究所(FSI)モスバッカー・シニアフェロー。スタンフォード大学の政治学・社会学教授でもある。フーバー研究所の台湾プロジェクト責任者。FSI「民主主義・開発・法の支配センター」で所長を6年以上務め、現在は同センターのアラブ改革・民主主義プログラムを率いる。専門は、世界の民主主義の動向と民主主義を守り高めるための政策・改革。『侵食される民主主義:内部からの崩壊と専制国家の攻撃 上下巻』(勁草書房、市原麻衣子監訳)、『In Search of Democracy』(仮題『民主主義を探して』未邦訳)、『The Spirit of Democracy』(仮題『民主主義の精神』未邦訳)など、著書多数。 Photo by Linda A. Cicero - Stanford News Service
ダイアモンド ロシアのウクライナ侵攻という実存的な難題に直面し、西側諸国は目的意識や決断力を取り戻した。
だが、ロシアという侵略国を懲らしめ、ウクライナの人々という犠牲者に救いの手を差し伸べることにとどまらず、私たちにできる、もっとポジティブなことがたくさんある。もっと純粋に平和的なこと、つまり、世界中の民主主義的な価値や大志を支えることだ。
ロシアはデマを世界に拡散し、米国などの民主主義国家に関するウソや歪曲(わいきょく)した情報を広めることに巨費を投じ、世界の民主主義国家の裏をかこうとしている。民主主義という概念のイメージを悪くさせ、価値を下げようとしている。
一方で、イランや中国といった独裁政権の国々で、人々が立ち上がり、抗議デモが起こっているのも事実だ。
例えば、中国では、政府の厳しいコロナ対策に対する大規模なデモが見られ、ロシアでも、ウクライナ侵攻に反対するデモが起こった。ミャンマーでは、2021年2月の国軍によるクーデターを受け、自由を求める人々が果敢にも抗議デモを行った。
とはいえ、独裁政権しか知らない人々は、民主主義の実現や維持に必要な条件が何かを、熟知していない。民主主義がどのように機能するか、わかっていないのだ。独裁政権による圧制を打ちのめすのに不可欠な戦術とされる、市民による非暴力の抗議行動をどのように行うか、といったテクニックを十分に把握していない。
だからこそ、私たち民主主義国家が協力し、正しい報道や真実、ポジティブなメッセージを伝えていく必要がある。それが、民主主義という多極的世界を再確認し、支持するのに役立つ。
独裁国家の独立系メディアでは、ジャーナリストやコメンテーターが自由を求めて闘い、基本的に私たちと同じ価値を共有している。だが、そうした反体制派ジャーナリストらには、持続性のあるニュースサイトや放送局を創設し、維持するだけのお金がない。私たちは彼らに資金を提供すべきだ。そうした支援は、独裁体制の国々に民主主義的な変革をもたらす一助となる。
――ロシアへの経済制裁における西側諸国の団結は、独裁政権にとって何を意味するのでしょう?
ダイアモンド 最初に言っておきたいのだが、地政学的な呼び方である「the West(西側諸国)」というのは、あまり有用な言葉とは言えないかもしれない。「自由民主主義陣営」という意味で、「liberal democratic community」か「the community of committed democracies」のほうがいいだろう。そうした呼び方なら、欧州や北米、日本、韓国なども入るからだ。
本題に入るが、ポイントは2つある。
まず、自由民主主義陣営の団結は、独裁国家にとって、極めてパワフルな「抑止力」になりうるという点だ。
自由民主主義国家はロシアの武力侵略や威嚇を前に、萎縮したり後ずさりしたりするようなことはない。その確固たる主義主張のために立ち上がり、経済力を行使し、武力侵略に立ち向かい、必要とあらば軍事力も行使する。先進民主主義国家がこれほど団結してロシアに立ち向かい、大規模なウクライナ支援を行うことをプーチン大統領が事前に予想していたら、彼がウクライナに侵攻していたとは思わない。
2つ目のポイントは、自由民主主義陣営の団結によって、民主主義国家が独裁国家に対抗して立ち上がるときは民主主義陣営が支援に回る、というメッセージが世界に発信されたことだ。「たとえ軍事介入は行わなくても、支援する道を探りますよ」というメッセージだ。
――教授を筆頭に、多くの専門家が、米国や世界の民主主義が危機にさらされていると警鐘を鳴らしています。民主主義陣営のウクライナ支援によって、危機に瀕する民主主義はどのように強さを取り戻すことができると思いますか。