仮に、高齢者の増加のために、社会保障給付が60%増えるとしよう。賃金が変わらず負担者数も変わらなければ、一人当たりの負担は60%増える。だから、保険料率などを引き上げる必要がある。

 しかし、賃金が60%増加すれば、負担率は不変に留められる。つまり、保険料率は、現行のままでよい。このように、経済成長率のいかんによって、社会保障制度の状況は、大きく変わるのである。経済成長率が0.5%か1%かによって、数十年後の世界は、まるで違うものになるのだ。

 前記の政府見通しでは、賃金について、かなり高い伸び率が想定されている。2028年度以降は、2.5%だ。では、賃金をこのように上昇させることは可能だろうか?

 毎月勤労統計調査によると、実質賃金指数(現金給与総額)は、2010年の106.8から2021年の100.0まで下落している。こうした状況を考慮すると、2028年度以降2.5%の賃金上昇率を想定するのは、楽観的すぎると考えざるをえない。検討の基礎としては、ゼロ成長経済を考えるべきだろう。

ゼロ成長経済での
社会保障負担率はどうなるか

 では、ゼロ成長経済において、社会保障給付や負担はどうなるだろうか?

 前記の推計においては、社会保障の給付と負担について、実額の他に、GDPに対する比率が示されている。「現状投影ケース」の場合は、つぎのとおりだ。

・社会保障給付の対GDP比は、2018年度の21.5%から、2040年度の23.8~24.0%へと、10.7(=23.8÷21.5-1)~11.6%増加する。
・社会保障負担の対GDP比は、2018年度の20.8%から、2040年度の23.5~23.7%へと、13.0~13.9%増加する。

 いま、社会保障給付や負担、そして賃金のGDPに対する比率は、物価上昇率や賃金上昇率、あるいは経済成長率がどうであっても、影響を受けないと仮定しよう。つまり、これらの変数の成長率は同じであるとしよう。

 その場合には、ゼロ成長経済における社会保障給付や負担の対GDP比は、先に示した値と同じはずだ。したがって、先の数字から、ゼロ成長経済における社会保障の姿を知ることができる。