香港映画で初の興行成績1億香港ドルを突破見込みの「毒舌大状」 Photo:magnumfilms香港映画で初の興行成績1億香港ドルを突破見込みの「毒舌大状」のWebサイト Photo:magnumfilms

2019年のデモから2020年の香港国家安全維持法制定、そして2021年には映画検定審査条例まで改定された香港。一時はその人気ジャンルの存続が危ぶまれたものの、ここに来てヒット作が続々。忌避されるはずといわれていた法廷劇までが大ヒットしている。そこに、「市民は映画を守らなければならない」という香港人著名監督の発言に注目が集まっている。香港映画は今どんな状況にあるのか?(フリーランスライター ふるまいよしこ)

法廷劇「毒舌大状」が
香港映画初の興収1億香港ドルを突破の見込み

 昨年頃から、香港の映画界が活況を呈している。今年に入ってからもその勢いは衰えず、香港映画界にとって書き入れ時である旧暦の正月に合わせて公開された「毒舌大状」が大ヒット。その興行成績は既に香港産映画初の1億香港ドル(約17億円)を突破した。

 この作品のタイトルにある「大状」とは社会的エリートである法廷弁護士のこと。エリートなのに「毒舌」という主人公の法廷弁護士に、人気スタンダップコメディアンの黄子華(ダヨ・ウォン)さんが扮し、かつて自分のミスから懲役刑を受けた被告のために新たに現れた証拠をもとに起死回生を図る……というストーリーだ。筆者はまだこの作品を見ていないので詳細はよく分からないのだが、コメディアンと法律のエリートという組み合わせの新鮮さ、そしてこれまでもさまざまな「名言」を紡ぎ出し、市民に「子華神」と崇められる黄さんの弁論シーンが大ウケしているようだ。

 興味深いのは、それが法廷劇であるという点である。というのも、2020年に中国政府主導で「香港国家安全維持法」(以下、国家安全法)が施行されて以来、香港ではそれまでの政府、権力、そして法制度に対する認識がガラリと変わった。人々は初めて直面する「国家安全」という概念、そして政治を変えようと選挙に立候補しただけで「国家政権転覆罪」が適用されるという新しい現実に震え上がった。そしてまさに今、そんな民主派元立候補者たちに対する審判が日々開かれているところだ。