「日本人女性はおごられたい」とくくらないで

 そのように考える筆者にとって、ショックだった記事がある。東洋経済オンラインに掲載された『「男がおごるべき論争」日独でこれだけ違う価値観 ドイツの女性は「おごられるのは気が重い」』(サンドラ・へフェリン)だ。

 この記事は、今回のおごりおごられ論争をきっかけに、「ドイツ出身、日本歴20年」のコラムニスト女性が執筆している。

 女性はデートの準備にお金と時間をかけているという一部のインフルエンサー女性の発言を受けて、サンドラ氏はこう書いている。

「そんなドイツではデートのために女性が2時間かけて化粧をすることはまずありません。デート前に美容室に行くというのもあまり聞いたことがありません。もちろん普段よりも気合は入りますが、日本のようにデートのたびに準備の段階で札束が飛んでいくような状況になることはあまり一般的ではありません」

 日本でも、デートのために2時間かけて化粧をする女性は、多数派とは言えないのではないか。統計がないのではっきりしたことは言えないし、ドイツよりも日本の方が女性がメイクや身なりに気を使わなければいけない風潮はあるかもしれないが、「2時間化粧」「デート前美容室」「デート準備段階で札束が飛ぶ」を一般的な日本人女性像かのように捉えられるのは違和感しかない。

 ネット上でこのようなおごりおごられ論争や、サイゼリヤはデートでありかなしか論争がたびたび盛り上がってしまう日本は幼稚に見えるかもしれないが、それは極端な一部の意見が目立ち、それをネタにする人が多いのであって、現実とは若干の乖離(かいり)があることは知ってもらいたい。

 このコラムの中に、「2人とも歩くのが好き」な男女がいた際に「初デートで山歩きやちょっとした登山に誘う」ことについて、サンドラ氏は「あり」だと思うが、日本人の女友達に聞いてみたら「ドン引き」し、「好きな女性を初めてのデートで山歩きに誘うなんてお金を使いたくないだけじゃん。山に行ったらお金はかからないし安上がりだからね」と言ったというエピソードが書かれている。

 しかし、それは一人の日本人女性の意見であって、日本人女性の総意や傾向ではない。少なくとも筆者はこのように思わないし、山歩きに誘われたことを理由に、多少なりとも好意を抱いていた男性に「ドン引き」することはない。

 ドイツと日本を比べるのであれば、日本には「男性を立てる」文化があり、そのために、会計時には男性が払うように見せ、後から女性が割り勘分をそっと渡す……といったお作法がデートマナーとして女性誌などで取り上げられることがある、といった話にも触れてほしかったとは思う。

 前述の通り、おごられて当然と思っている女性は日本の中でも、もはや少数派である。その事実に触れることなく、「日本女性=おごられることを望む」「ドイツ女性=おごられるのは気が重い」と大ざっぱにまとめられたようで、なんともいえない気持ちになった。

 最近、ネット上では「主語デカ」がたしなめられる風潮もある。「男は〇〇」「女は××」といったような主語の大きい語りへの警告である。

 しかし、おごりおごられ論争の場合はどうも「主語デカ」の警鐘が低調であるようにも感じる。本来、「主語が大きい」と「ケースバイケース」で終わる話ではないのかと、繰り返し主張していきたい。