ソーシャルニーズ創造をどう実現するか
オムロンの企業理念経営は、足元の事業運営だけに留まらない。むしろ中長期的な企業価値向上が、その大きな目的である。1991年から長期ビジョンの発表を行っており、同社にとって4回目となる長期ビジョン「Shaping the Future 2030」(SF2030)が2022年4月よりスタートしている。いま多くの企業が長期ビジョンを掲げているが、オムロンはここでも先駆者である。
企業理念と同様、オムロンの長期ビジョンにも創業者の思いが受け継がれている。それは、立石氏が1970年に発表した未来予測理論「SINIC(サイニック)理論」である。これは、長期ビジョン策定に不可欠な未来社会の姿を指し示すだけでなく、経営の羅針盤にもなっている。このSINIC理論では、現在は「最適化社会」と定義され、新旧の価値観がぶつかり合う、時代の転換期と考えられている。その葛藤を乗り越えた先に訪れるのが、次の「自律社会」であり、そこでは社会全体の豊かさと自分らしさの追求が両立するという。
「新旧の価値観がぶつかり合う現在の『最適化社会』では、社会経済システムにひずみが生じ、社会的課題が次々に発生する時代です。しかし裏を返せば、当社が企業理念に掲げる『ソーシャルニーズ創造』の機会に溢れた時代でもある。ですから私たちは、企業理念を実践し、飛躍と成長につなげる大きなチャンスだととらえています」(山田氏)
ではオムロンは、次の自律社会に向けて、ソーシャルニーズ創造をどのように成し遂げようとしているのか。それを示したのが、先に挙げた長期ビジョン「Shaping the Future 2030 〜人が活きるオートメーションでソーシャルニーズを創造し続ける」である。ここでは「人が活きるオートメーション」をスローガンに、2030年に向けてオムロンが取り組むべき社会的課題(=成長機会)を「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」の3つに定めた。さらには、社会価値を創出する下記4つのドメインを定義。これらを、4つのコア事業(制御機器事業、ヘルスケア事業、社会システム事業、電子部品事業)で担っていくことになる。
◎インダストリアルオートメーション:持続可能な社会を支えるものづくりの高度化への貢献
◎ヘルスケアソリューション:循環器疾患の“ゼロイベント”への貢献
◎ソーシャルソリューション:再生可能エネルギーの普及・効率的利用とデジタル社会のインフラ持続性への貢献
◎デバイス&モジュールソリューション:新エネルギーと高速通信の普及への貢献
ものづくり現場を革新する「i-Automation!」
とりわけ主力事業・制御機器事業が担うドメイン「インダストリアルオートメーション」は、電気自動車(EV)のエネルギー高効率化、半導体製造の能力増強と超微細化、脱プラスチックに向けた包装材の進化などのさまざまなニーズが溢れ、製造業の転換期に伴う成長機会と位置付けられている。同事業では、こうした機会を捉え、「integrated(制御進化)」「intelligent(知能化)」「interactive(人と機械の新しい協調)」という3つの「i」で、ものづくり現場にイノベーションを起こす「i-Automation!」というソリューションも生み出した。すでにグローバル37拠点のオートメーションセンターで1600人のアプリケーションエンジニアが、顧客現場でのi-Automation!の実装に取り組んでいるという。山田氏は次のように語り、講演を締め括った。
「オムロンはものづくり現場のオートメーション化に不可欠なすべての機器をラインナップする業界唯一の制御機器メーカーです。センサーやコントローラー、モーター、ロボットなどの製品をすべて自社で揃えており、そのラインナップは20万点に上ります。さらには、これら製品群を自社開発のソフトウェアでつなぎ、他社には真似のできない独自のソリューションパッケージとして提供しています。
激変する世界経済を背景に、日本の製造業はいま、逆境の最中にあるのかもしれません。しかし、私は日本製造業の復活・復権を信じています。オムロンは『人が活きるオートメーション』を軸に、皆さんとご一緒にものづくりの現場に革新を起こしたい。持続可能な社会(自律社会)に向けて、取り巻く逆境をテコに、ともにチャンスをつかんでいきましょう」(山田氏)