自分がスパイであることを家族にも話せない

 もしあなたがこんな経験をしていたとしたら、その相手は「スパイ」かもしれません。まさか、と思うでしょうか。「スパイなんて、映画の中の話でしょ」「自分が狙われるわけがない」「あんな地味な人がスパイ?」などと思った方は要注意です。

 スパイは家族にも自分の任務を話すことができません。家族でもわからない素性を、工作対象とされた人物が見破るのは至難の業(わざ)なのです。

 私は、ソ連のKGBのスパイとして、ソ連の通信社の記者をレジェンドにして日本で活動していた人物にも話を聞いたことがあります。記者としての仕事をしながらスパイ活動をするのは大変な重圧だったそうです。日本国内で人脈を形成することで、自分を信頼する人が増える一方で、実際は、その人を欺瞞(ぎまん)して情報を収集するために利用しているわけですから、そんなことをする自分への自責の念に苛(さいな)まれることも多く、ストレスが大きかったというのです。彼は、それに耐えきれずにアメリカに亡命してしまうのですが、ソ連に戻った同僚たちの中には、精神的重圧から心を病む人もいたそうです。スパイも人間なのですね。

 スパイが最も活躍するのは、戦争などの国家の行く末を左右するような時ですが、戦前の日本もスパイによる諜報活動の標的となり、また自らも諜報活動を行っていました。

 そもそも国同士が外交関係を持ったり戦争をしたりする以上、相手の国の事情を知っておく必要があります。『旧約聖書』にもスパイ活動の話が出てきますし、古代ギリシャでもローマでもスパイ活動はつきものだったのです。