日本でも「格差」を理由にたばこ規制が進むおそれ
このような話を聞くと、「ま、日本はアメリカほどひどい格差はないから、今のところそんな“反たばこ”の世論にはならないだろ」とホッと胸をなで下ろす喫煙者も多いだろうが、これは対岸の火事ではない。
我が国でも遅かれ早かれ「貧しい人ほどたばこで健康を損ねる傾向があるので、格差をなくすためにたばこを規制せよ」という世論が盛り上がっていく可能性が高いのだ。
それがうかがえるのが、東北大学大学院歯学研究科の竹内研時准教授らのグループによる研究だ。竹内准教授らは20~69歳の男女約5000人を2017年~2020年にかけて追跡して、加熱式たばこによる受動喫煙への曝露状況が17年に4.5%だったものが、20年には10.8%となんと2.5倍になっていたことを明らかにした。これまで一般市民における、加熱式たばこの受動喫煙曝露の実態はわからなかったが、それを世界で初めて明らかにした研究だ。
実はこの研究には注目すべき点がもうひとつある。それは加熱式たばこの受動喫煙にさらされるリスクに「学歴」が関係しているということを明らかにした点だ。竹内准教授が言う。
「対象者を、中学・高校卒業者と、専門学校・短大・高専卒と、大学・大学院卒という3つのタイプの教育歴に分けて集計したところ、教育歴が短いグループ(中学/高校卒)は、教育歴の長いグループ(大学/大学院卒)に比べて、加熱式たばこによる受動喫煙への曝露リスクが約60%高いことが明らかになりました」
そもそも、なぜこのようなことを調べたのかというと、かねてから「紙巻きたばこ」ではこのような傾向があるということが指摘されていたからだ。
「以前から国内外のさまざまな研究で、教育歴が短い人ほど、紙巻きたばこの受動喫煙にさらされる割合が高いということがわかっています。そこで、加熱式たばこにも同じ傾向があるのか調べてみようと思ったんですが、そこである興味深いことがわかりました」(竹内准教授)
実は調査を開始した17年時点では、低学歴の受動喫煙曝露割合は5.4%で、高学歴は3.8%とそこまで大きな開きはない。しかし、翌年になると急に差が大きく開いた(18年時点で低学歴は10.2%、高学歴は5.5%)。
「加熱式たばこは全国のたばこ取扱店での販売が16年に始まったため、17年の段階ではまだ目新しかったとことに加え、従来の紙巻きたばこと比べ、吸うためのデバイスを購入する費用が余分にかかることから、教育歴が長く比較的金銭的に余裕のある人も先んじて購入し、いろんな場所で吸っていた可能性があります。その後、デバイスも求めやすい価格になって認知も広がったことで、徐々に教育歴の短い人のユーザーも増え、紙巻きたばこと同じ傾向におさまっていったと考えられます。つまり、これが喫煙というものに共通する特徴ではないでしょうか」(前出・竹内准教授)