昨今、流行りの「パーパス経営」をスローガンに掲げつつ、「トラスツズマブ デルクステカン」の価値の最大化が最優先のミッションだと、自他ともに認める奥澤宏幸社長兼COO率いる第一三共の新体制が、4月にスタートする。提携する英アストラゼネカとの二人三脚に一部は負うとはいえ、成長を続ける革新的な新薬を擁し、国内勢のなかでも中外製薬と並ぶ勝ち組とされる企業の節目である。本来ならば、もっと注目されてしかるべきトップ人事だった。だが、タイミングが実に悪かった。
第一三共とは比べものにならない桁外れの巨大企業・トヨタ自動車による異例づくめの社長交代劇の余韻が続いていたうえに、第一三共の発表の翌々日には、その一挙手一投足が衆目を集めるソニーグループでもトップの交代が明らかになり、経済メディアの関心はすっかりそちらに移行してしまったからだ。さらに泣きっ面に蜂だったのは、国内再編組の先輩格・アステラス製薬も安川健司社長から岡村直樹副社長へのバトンタッチを、故意にぶつけてきたかのように公表したため、奥澤次期社長のせっかくの意気込みも、眞鍋淳次期会長兼CEOによるエールもたちまち薄らいでしまった。何とも幸先が悪い。