銀行マンにとって異動は
自分を変えるチャンス
私は30年余りで10回以上、人事異動を繰り返してきた。中でも転居を伴う異動が一番大変だった。発令を受けてから最短の場合、約1週間で引っ越しまで完了させなくてはならない。妻がパートをしていれば退職させ、子どもが学校に通っていれば転校手続きもある。自分一人ならなんとでもなる。しかし、家族にはそれぞれのコミュニティーがあり、異動は友情や友人関係を無情に引き裂く。
家族には申し訳ないが、銀行員を夫に父に持った家族の運命と諦めてもらうしかない。中には夢の新築マイホーム完成前に異動となる者さえいる。自分たちが住むことなくリロケーションに回し、新居は住まないうちに中古住宅になる。さらに、住宅ローン減税も、ローンを組んだ本人もしくは家族が住んでいる必要があるため、受けられない。なんとも不条理なものだ。
新任地へと向かう電車に乗り込む際、私は事前に駅の本屋でその土地の地図を買うことにしていた。今でこそ、スマホひとつで世界中の地図を見られるが、若い頃はそうはいかなかった。
目黒冬弥 著
まず、新任地の支店。次に地域で一番大きな駅を見つけ、市役所、コンビニ、スーパーなどなど、新しい生活基盤を確認する。時間が余れば、難しい読み方の地名を探す。新任地で担当する取引先に質問して、話のネタにしたりするのだ。
自分を覚えてもらうきっかけは、そういった小さなことにすぎない。そして、あいさつと自己紹介だけは大声で。第一印象で好感を持ってもらうことしか考えない。初対面で人見知りするような担当者に、大事な取引を任せられるだろうか?
人事異動は、良くも悪くも自分を変える千載一遇のチャンス。嫌な上司だって2~3年我慢すれば、相手もしくは自分が異動となり、別れることができる。このあたりが、銀行マンの魅力のひとつだ。敗者復活戦にできるかどうかは運もあるが、その辺りも拙著に記してある。私は、今日も懸命に勤務する。辛いことはたくさんあったが、この銀行に感謝している。
(現役行員 目黒冬弥)