企業が「脱炭素」に取り組むための
3つのステップ

 ここまで、「脱炭素」への取り組みが経営リテラシーを測定するための、いわばリトマス試験紙になっている状況をレビューしてきた。

 企業が「脱炭素」に取り組むためのステップを、フロンティア・マネジメントでは(1)排出量の可視化、(2)削減目標の設定、(3)アクションプラン策定・実行の3つに整理している。

 特に重要なのが第1ステップの排出量の可視化だ。可視化された事実が、後続のステップを左右するからだ。ところが現実には、すでにこの段階での「ボタンの掛け違い」が多くの企業で起きているようだ。

 昨年10月末時点のJPX日経インデックス400構成銘柄のうち、自社の排出量を可視化できている企業は全体の65%に達した。そして、自社とサプライチェーンを共有する取引先企業も含めた排出量(いわゆるScope3)までを開示している企業も全体の48%にのぼる。グローバルでは、Scope3開示企業は44%というから、日本企業の水準はこれだけ見ると低いどころか、かなり優秀に見える。

 問題は、排出量算出の方策だ。サプライチェーン(Scope3)全体の捕捉を、自社の業容(活動量)に排出原単位を掛け合わせることで試算している企業がほとんどなのだ。

 この方策を採用している企業は、事業活動を拡大していくに連れて排出量が増加する結果が出る。しかし、排出量が多いのはどの取引先とのどんな取引かがわからないので、原因分析も対応策も作れない。排出量の削減には活動量を減らすしかないが、そうすると、事業成長ができなくなるという論理矛盾に陥るのだ。

 このような状況が温存されているのは、企業側が脱炭素への取り組みに形式的に対処することを優先しているからだ。ステークホルダーの要請をまずは受け止め、忠実に遂行しようとする企業姿勢は称賛されるべきだが、これでは「脱炭素」ができたとしても、競合に勝つことには繋がらず、本末転倒だ。