球団移転を交渉の武器にする
米国メジャースポーツ

 この「球団がなくなってもいいんですか?」は、千葉ロッテマリーンズの場合は比較的交渉の武器として効果を上げたが、それがいつも有効だというわけではない。たとえば1988年に南海ホークスが福岡にダイエーホークスとして移転する際に大阪市や府が強くひきとめたという話は聞かないし、2003年の日本ハムファイターズの東京から札幌への移転の際も同様である。これは、それぞれ阪神タイガース、読売ジャイアンツという、同じ地元の(厳密に言えばタイガースは兵庫県だが)大人気球団があるがゆえに、球団側が交渉力を持てなかったから、という理由が大きいだろう。

 欧州サッカーなどではこうした「移転の可能性を交渉の武器」にという話はあまり聞かないが、アメリカのメジャースポーツでは最近、こうした話は枚挙にいとまがない。移転をチラつかせて自治体から補助金を得たり、逆にそうしたサポートが得られないのなら本拠地を移転するということが日常的に行われているのだ。

 これにはいくつかの理由がある。第一に、アメリカの場合、日本の東名阪ほど一部の都市部への人口集中が高くはなく、また国土が広いことから、各地方の中核都市にとって、住民に魅力あるよう、プロスポーツチームを持つことの重要性が高いということがある。事実、昨年のある調査で「全米で最も住みやすい街」に選ばれたピッツバーグ市は、その理由の1つとして「強豪プロスポーツチームが多い」ということが挙げられていた。NFLのスティーラーズ、NHLのペンギンズといった、国際的にも人気のある球団のことを指すと思われる(MLBのパイレーツは弱くて不人気だが)。

 東京などに住んでいるとなかなか気がつきにくいが、アメリカでも地方都市に行けばそれほど娯楽が充実しているわけではない。その街にプロスポーツチームがあることは、住民にとって誇りでもあり、政治家にとっても関心事項なのだ。それゆえに交渉材料になりやすいと言える。

 第二に、プロスポーツ球団の保有が以前に比べてよりビジネスライクになったことが挙げられる。昔は鷹揚な大金持ちがパトロンとして球団を持つというパターンが多かったが、最近では富豪でもよりビジネスマインドを持った人物や、投資グループなどが球団を保有し、まさにValue Addしてより高値で売る、ということが増えている。球団の魅力を上げるために、自治体の協力を得るための交渉などが当たり前のことになりつつあるのだ。

 その典型例が、現在、MLBマイアミ・マーリンズのオーナーのジェフリー・ロリア氏だ。彼はかつて不人気球団のモントリオール・エキスポス(現在は移転してワシントン・ナショナルズ)を安い価格で買収し、その後MLBに同球団を高値で売ることに成功した。そして今度はマーリンズ(買収当時の名称はフロリダ・マーリンズ)に目を付け、これを買収し、新スタジアム建設を画策する。新スタジアムの建設は、入場者増にもつながることから、付加価値アップの常套手段である。彼は、マイアミからの移転をチラつかせながら行政当局と交渉し、およそ5億ドルの補助金を引き出すことに成功したと言われている。マーリンズの買収価格が2億ドル未満と言われているから、その数倍の補助金を交渉により得たのである。おそらく数年内に行われるであろう売却時にいくらの値がつくか、今から予想はできないものの、数倍のリターンは得られるのではないだろうか。

 ミネアポリスに本拠を置くNFLのミネソタ・バイキングスも、移転を交渉材料に、新球場の建設を地元の議会に認めさせることに成功した例だ。現在バイキングスの本拠地のメトロドーム(正式名称はモール・オブ・ザ・アメリカ・フィールド・アット・ハーバート・H・ハンフリー・メトロドーム)は、東京ドームのモデルとしても有名だが、「フィールドが見にくい」「使いにくい」「音がうるさい」「危険(実際に屋根が積雪で破れる事故があった)」「収容能力が小さい」と、新球場建設は長年の懸念となっていた。バイキングスの粘り腰についに行政側も折れた格好である。