薄毛の男性の後頭部写真はイメージです Photo:PIXTA

子どもから高齢者まで誰でも発症する可能性がある円形脱毛症。昨夏、飲み薬「バリニシチブ」(商品名オルミエント)が保険診療で使えるようになったが、その効果と副作用は。また、加齢による薄毛と思いきや、実は全く違う原因が潜んでいる場合がある。その意外な原因と処方箋とは――。(ジャーナリスト 笹井恵里子)

子どもから高齢者まで
誰でも発症する可能性がある

 前編では加齢に伴う薄毛を紹介したが、他の脱毛症を取り上げよう。代表格といえるのが、髪の毛が円形状に抜ける「円形脱毛症」だ。

 生まれつき発毛機能に異常があるわけではなく、ある日突然、なんの前触れもなく発症するのが特徴だ。日本皮膚科学会「円形脱毛症診療ガイドライン2017年版」の作成に携わった齊藤典充医師(なごみ皮ふ科院長)がこう説明する。

「子どもから高齢者まで誰にでも発症する可能性がありますね。最近の研究では推計人口の0.16~0.27%ほどいるとされています。症状の重さによって毛が抜ける範囲はさまざまで、軽ければ本人も気づかないまま治ってしまうことも。ただ円形などの脱毛が2カ所以上の多発型、頭髪が全て抜ける全頭型など、数が増えたり範囲が広がってしまうと不安になって医療機関を受診する人が多いです」

 重症であると髪の毛だけでなく、眉毛やまつげなど全身の毛が抜けるという。

重症の円形脱毛症への
特効薬がついに登場

 そもそもどのような仕組みで、円形脱毛症が発症するのか。ひとことでいうなら、免疫機能の“暴走”だ。

「通常、免疫細胞は毛根(毛をつくる工場)を刺激しませんが、遺伝や感染など何らかの誘引で、毛根への攻撃信号を伝えるサイトカイン(細胞から細胞へ情報を伝達する物質)が過剰につくられ、免疫細胞が毛根を刺激してしまいます。そして免疫細胞による毛根への攻撃で毛の成長が阻害され、毛が抜けてしまうのです。関節リウマチなどと同様に自己免疫疾患の一つですね」

 治療法はさまざまで、主には抗炎症作用のあるステロイド内服(のみ薬)や点滴、ステロイドを患部に注射する治療法、そして外用療法(ぬり薬)がある。ぬり薬は、抗炎症作用のあるステロイドや血行促進作用のある外用剤、そして頭皮にかぶれを起こす薬剤をわざと塗って免疫反応を活性化する(発毛を促す)方法などがある。そのほか液体窒素で冷却したり、紫外線を当てるなどの方法もある。

 脱毛範囲が狭い場合は、これらが比較的有効だったが、重症の円形脱毛症の人に対しては特効薬がなかった。それが昨年夏、飲み薬「バリニシチブ」(商品名オルミエント)が保険診療で使えるようになった。どの程度の効果があるのか。副作用やデメリットはあるのか。