新メンバー加入による一時的な
パフォーマンス低下の期間を短縮

 大きな組織になればなるほど現場が採用に関わらないだけでなく、採用に携わる人事担当者と入社後の人事担当者が異なることも多くなります。また就職・転職だけでなく異動の場合でも、上司となるマネジャー以外の同僚や部下となる人と話したことがないということもよくあることです。

 その結果「異動・入社まではいろいろとケアされたのに、入った後は放置されている」「入ってみたら、みんなが冷たい」といった状況になることがあります。これは異動前と異動後とで関わる人が変わる上に、以前からその組織にいた人たちは大変忙しいことが多いからです。忙しいがゆえに人を必要としているわけですから、迎える側にも新メンバーを歓迎する気持ちはあるのです。ただ一時的にはコミュニケーションコストが増え、しばらくは組織としてのパフォーマンスが下がり、より忙しくなるということが起こります。

 アリストテレスは「全体は部分の総和に勝る」という言葉を残したとされています。各人の能力の合計ではなく、それ以上の能力を生み出せるのが組織やチームの優れた点です。しかし、仕事量がチームの力を超えるとパフォーマンスが伸びにくくなります。

 そこで人を加えるのですが、新たな人が加わった当初はどうしても、一時的にはパフォーマンスが落ちます。加わった人が戦力化するとまた一気に全体の戦力が上がり、全体が部分の総和に勝る状態にたどり着きます。しかししばらくして、また仕事量がチームの力を超えれば同じことが繰り返されるのです。

 オンボーディングは、新メンバー加入による「一時的なパフォーマンスの劣化」から「徐々に戦力になる」期間を短縮する仕掛けとして機能します。

異動や入社で迎える新メンバーを戦力化する、オンボーディングの重要性

 新メンバーに早期に戦力になってもらうほかに、新入社員や中途採用で入ってきた人が早々に辞めてしまう可能性を低減する役割も、オンボーディングは果たします。

 私も作成に協力したNTTコミュニケーションズの「オンボーディング ハンドブック」には、新メンバー配属前の準備から戦力化するまでに実施すべきことまでを整理してまとめてあります。この中に、オンボーディングのメリットとして「新メンバーの不安を軽減し、エンゲージメントを向上させる」という点が挙げられています。言い換えると「リテンション」、つまり必要な人材の維持・引き留め策です。