「成長も分配も」を掲げる岸田内閣の「新しい資本主義」政策。マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、現在は複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏は、日本の今の状況を「フラットな状態に最適化されすぎた」と語り、「企業の組織や事業、人のあり方にもそれが重なって見える」と語る。及川氏が考える、今の日本に必要とされるダイナミズム、成功を生む源泉としての失敗の力とは。
値上げも賃上げもない日本企業
目的が明確ではない分配政策
2021年に発足した岸田内閣では、新型コロナウイルスへの対応や外交、災害対応などと並んで「新しい資本主義」の実現を主要政策のひとつに掲げています。
「成長も分配も」を目指すこの政策のうち、分配強化施策の一部として進められているのが、子育て世帯への臨時特別給付金です。18歳以下の子どもに1人あたり10万円相当が支給されることが決まったのですが、自治体によって一括支給か分割支給か、全額現金か一部をクーポンで支給するのかといった支給方法や、所得制限額が異なることなどが議論を呼びました。
個人的には現金であれクーポンであれ、ぜひやってほしいと感じます。ただ、この「分配」については新型コロナ対策としてだけでなく、長きにわたって成長が鈍化している日本経済を立て直すための投資の側面もあったはずです。給付金には、コロナ禍で疲弊した経済状況の中で、特に痛手を受けている子育て世帯に重点的に分配を行う意図もあるのでしょうが、現状ではコロナ対応の部分だけが強調されすぎていて、目的が明確になっていない感じもします。
さて、成長と分配については、企業の賃上げに対する税制支援強化などのかたちでも施策が掲げられています。ベーシックインカム的な分配だけでなく、賃金を上げることも分配と考えれば、確かに内部留保が増えている大企業にとっては、すぐにでも実行可能な施策でしょう。では、なぜ企業は賃金を上げてこなかったのでしょうか。