創業は日露戦争終結から3年後の1908年9月――。20世紀の米産業界に君臨したゼネラル・モーターズ(GM)が6月1日、連邦破産法第11条(チャプターイレブン)の適用申請に追い込まれ、経営破綻した。法的整理の手続きが順調に進めば誕生する新生GMの株式72%は米国とカナダの両政府が保有(うち米政府が60%)。一時国有化という緊急避難措置で、再建を目指す。周辺産業まで含めれば100万人以上の雇用に影響を与えるといわれるGMの生死は、単に同社や自動車産業の問題ではなく、米経済全体、果ては世界経済の浮沈をも左右する一大事だ。チャプターイレブンから抜け出せず、チャプターセブン(精算手続き)に移行するようなことがあれば、GM発の大不況ともなりかねない。この重大な局面を、当事者はどう乗り切ろうというのか。破産法適用申請の数日前にデトロイトで開かれた業界団体の昼食会後に、GMのボブ・ラッツ副会長兼シニアアドバイザーを直撃取材した。
ボブ・ラッツ(Bob Lutz) GM副会長兼シニアアドバイザー。財務・管理部門出身者の多いビッグスリー経営者の中で、営業や製品開発畑から中枢まで上り詰めた稀有な存在。“カーガイ(CAR GUY)”の異名を持つ。1954年から1959年まで米海兵隊のパイロットを務めたのち、GM欧州、BMWを経て、1962年フォード・モーター入社。副会長まで務め、1986年にクライスラーに移籍。スポーツカーの「ダッジ・バイパー」や、クラッシックカーを連想させるレトロなデザインで人気を博した「PTクルーザー」などを手がけた。1998年にGMに移籍。リチャード・ワゴナー前会長(今年3月に退任)と二人三脚で、「キャデラック」や「シボレー」など不振に喘ぐ同社の主力ブランドの立て直しを牽引してきた。年内退任が決まっている。スイス生まれ。77歳。Photo (c) AP Images |
―連邦破産法第11条(チャプターイレブン)適用申請は、GMおよび自動車業界にどのような影響を与えるか。
認めたくはないが、率直に言って、われわれのライバル各社にまずポジティブな影響を与えることになるだろう。クライスラーが(4月30日、GMより先に)チャプターイレブンの適用を申請した後の米国販売の状況を調査してみたが、確かにそのような結果になっていた。クライスラーに限らず、過去、経営破綻した自動車メーカーの販売は低迷している。それゆえ、われわれもチャプターイレブンに入るなら入るで、可能なかぎり早くそこから抜け出したい。
―部品メーカーの連鎖破綻の懸念もある。
(5月に支払いを前倒すなど)サプライヤーを“麻痺”させないためのステップは取っている。ただ、(債務の法的整理の手続きが)長引けば長引くほど、不透明感が広がり、ダメージが拡大してしまうのは事実だ。
―米国政府はカナダ政府とともに、新たに計396億ドルをGMに追加支援し(米政府が301億ドル、カナダ政府が95億ドル)、破産手続きを経て誕生する新生GMの株式の計72%(米政府は60%、カナダ政府は12%)を取得すると報道されている。オバマ政権は、国有化は一時的な措置との考えを示しているが、政府管理下に入ることに対して、抵抗感や懸念はないのか。
ない。少なくとも私にはない。多くのメディアは、「なんてことだ!政府がGMのクラッチを握って、1ガロン当たり45マイル(1リットル当たり19キロ)以上も走る小さな“グリーン・エコノボックス”ばかりを作るぞ。アメリカ人はそんなものばかり買うわけじゃない」と言っているが、それは間違った見方だ。
政府はGMにつぎ込む納税者のお金がなるべく早く戻ってくるように、GMに対して、収益的に成功するためのベストウェイを提示したいだけだ。アメリカ人が本当に欲しいというクルマを作れるようになってもらいたいと思っているだけだ。