たとえば、ゲンを担いで“何か”をしたとしましょう。もし、それで負けてしまったら、もうその“何か”は使えなくなってしまいます。

「あのG1を勝ったときの鞭だから」として、その鞭をゲン担ぎの対象としたとします。その鞭を使って、負けてしまったらどうでしょう。「縁起が悪いから……」と次からは使えなくなりますよね。

 でも、さすがに鞭は使い捨てにはできません。鞭に限らず、そんなことを繰り返していたら、使えるものがなくなってしまいます。

 それ以前に、そんなことを考えること自体が僕は嫌です。

 自分が下手に乗ってしまったのであれば、素直に反省すればいい。

 下手に乗っていないのに負けてしまったのであれば、もっといい競馬ができなかったかなと考えて反省はするけれど、悲観する必要はない。

 それだけだと僕は思うのです。

 何度でも言いますが、ジョッキーとは圧倒的に負けることが多い仕事。だから僕は、ゲンを担ぎません。

「いつもの自分」を保つために
同じメニューを食べる

 週末の朝、僕はいつも同じものを食べます。競馬場によって用意されているメニューは違いますが、大抵はカレーを食べています。

 これはゲン担ぎではありません。いつも同じものを食べて、同じ胃袋の状態にして、同じ消化の仕方をしたいから。つまり、週末の体調を一定に保ちたい、目的はそれだけです。

 違うものを食べて、「なんか胃が重いなぁ」「胸焼けがするなぁ」と体に変調をきたしたとしたら、それは“いつもの自分”から外れてしまいます。ただでさえ、不可抗力の波がある仕事ですから、自分に隙を作りたくないのです。

 自分が常に同じ状態で競馬に挑んでいれば、結果がよかろうと悪かろうと、それはその日の流れだと受け止められます。

 もちろん、レースの中で細かな変化は施しますが、いつも通りの自分で当たり前のことを当たり前にやった結果であれば、あとはもう勝負の流れだと割り切ることができます。