財務インパクト試算は
「推定」で構わない
気候変動を主題とした「戦略」と「指標及び目標」の情報開示を行うための最初のステップは、「4度シナリオ」「2度未満シナリオ」という2つの仮定のもとでの収益リスクと機会の棚卸しだ。
4度シナリオが想定するのは、温室効果ガスの削減が思うように進まず、地球の平均気温の上昇が(産業革命時と比べて)4度上昇してしまう世界。
2度未満シナリオは、温室効果ガスの削減が進捗することで、地球の平均気温上昇が2度未満に抑えられる世界だ。後者が目指すべき姿だが、そのためには企業が炭素税などのコストや先進技術への投資を負担しなくてはならない。
上場企業は、これら2つのシナリオ下で、自社の財務指標がどのような「リスク」と「機会」という明暗両面の影響を受けるかを試算して、それに向けた戦略と具体的な数値目標を開示する必要がある。
サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の発表によると、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)による国際基準の策定を経て、遅くとも26年3月期の有価証券報告書から日本独自の財務開示基準が適用される方針だ。
このタイミングで、日本の上場企業にも「戦略」と「指標及び目標」、すわなち財務インパクトの開示が義務付けられる可能性がある。
こうした試算は途方もない作業にも思えるが、求められているのはあくまでも「試算」である。将来予測の正誤に対する結果責任は問われない。
自社の収益構造や業界動向を再考して、客観的な算出根拠と仮説思考で「フェルミ推定」(予想がつかないことを論理的思考によって概算すること)を行えばよい。仮説導出に長けた外部の専門家を活用することも一計だ。