突然のデモの中止……
その裏にはネット工作部隊が?
つまり、警察が正式にデモ開催に対して不反対通知書を出したにもかかわらず、同じ警察内で国家安全法に従って国家安全関連事件を担当する国家安全処から横やりが入ったということらしい。女性労働者協会関係者は、先の声明を発表しただけで「質問には答えられない」とメディアの前から姿を消した。
だが、同協会のSNS上の公式ページおよび関係者の個人アカウントには、報道後、わざとらしく暴動への昇化をあおる書き込みが殺到したとメディアが暴露。国家安全法の施行以来、SNS上では中国や香港の政府に対する批判や抗議活動の声を上げるとすぐさま政府の保安担当局が訪ねてくるというのが定説になっている。これは都市伝説ではない。筆者も友人から、SNSに書き込んだ批判をきっかけに、居住地付近で待ち伏せしていた当局担当者に連行され、「コーヒーを飲んだ」(取り調べを受けること)という経験をじっくりと聞いた。その結果、友人はSNS上のアカウントを抹消してしまった。
そんな状況の中で、平和的デモの開催を認可された組織のコメント欄に、大量の激しく、暴力的なデモをあおる書き込みが集中するとは尋常ならない事態である。あるネットメディアの報道によると、その書き込み主たちのアカウントをさかのぼってみたところ、過去の発言はどう見てもいわゆる「体制派」「親中派」のものばかりであり、デモ主催者のコメント欄への書き込みは何らかの意図をもって行われたのではないか、という見立てだった。 さらに、それらの激しいコメントは、デモ企画者が中止を発表すると、今度はあっという間に消え去っており、やはりこういう結果になることを期待して行われた「ネット行動」だったのではないかといわれている。
もちろん、そのネット行動を誰が企画して呼びかけ、どんな人たちが応じたのかは分からないままだ。だが、事後潮が引くようにコメント欄から姿を消したというかつての激しい論調の書き込みのキャプチャー画面を見ながら、多くの人たちが中国的なネット行動グループの存在を脳裏に思い浮かべている。
もちろん今のところ、プーさんのホラー映画『血と蜜』にそんなネット行動の影はない。
だが、この間に首都北京では、中国国務院(内閣に相当)と香港の橋渡し役を務めてきた「香港マカオ事務弁公室」が正式に、国務院から中国共産党中央執行部傘下へと編成を替え、「香港マカオ工作弁公室」と名前を変えた。中国語では「事務」は「手続き」を指す。一方で「工作」は「政策決定と実務」を指す。
つまり、香港は中国政府ではなく、直接中国共産党の工作の下に置かれることになったということだ。その共産党による「実務」の手始めに、『血と蜜』は香港人映画ファンの期待とともに血祭りに上げられたといえるのかもしれない。