それで、東京電力の場合は29.3%のはずだった値上げ幅は17.6%に、東北電力は32.9%から25.2%にとそれぞれ数字が引き下げられました。

 下がったことは下がったのですが、結局のところ2割前後の値上げ申請と大幅値上げであることには変わりありません。

 ただ、電力各社からみるとまだ最後の関門が残っています。値上げ申請については経済産業省と消費者庁が協議をしてそれを認めるかどうかを決めるのですが、3月20日に公正取引委員会が1000億円の課徴金を命じた電力販売カルテルの事件などの不祥事を理由に、消費者庁が協議に待ったをかけているのです。

 カルテルを結んでいた大手電力会社はこれまで不正な利益を上げてきたわけで、その問題がつまびらかになるよりも前に値上げするなんて、道理が通らないというわけです。ただ、まったく値上げを認めないということも状況的には難しく、結局は今月内に何らかの形で値上げ幅が政治決着しそうです。

新電力の3割近くが
「撤退・倒産」に

 この「値上げを認めないということが状況的に厳しい」原因は、実際に自由市場での卸電力取引市場価格が急騰しているからです。そのため格安な電力料金をうたい文句に参入した新電力が、次々と事業停止に追い込まれています。

 経緯を解説します。2016年に電力の小売りが全面自由化されるようになり、新電力が次々と発足しました。全国で706社の新電力会社が誕生したのですが、昨年のウクライナ侵攻で起きた原油高以降、新電力は経営が極端に苦しくなり、今年3月時点では全体の28%に相当する195社が契約停止、撤退ないしは廃業・倒産に追い込まれています。

 そうなった理由が、先述した電力の市場価格の高騰です。卸電力市場では2016年から2020年までの期間、取引価格はおおむね1kWhあたり9円から12円のレンジの中で安定的に推移していました。電力が安定価格で手に入るというのが前提の新規参入だったのです。

 概略で説明すると、新電力のビジネスモデルはこういう構造です。

 東京の一般家庭の場合(東電のモデルケースで説明すると)月9000円程度の電力料金を支払っています。1kWhあたり35円程度の価格です。新電力は卸市場で、10円程度で電力を仕入れて、たとえば32円程度の東電よりも安い価格で消費者に販売します。そうすると結構な差額が生まれますから、諸経費を支払っても利益が生まれる。そのような構造でした。

 ところがウクライナ侵攻後、エネルギー価格が急上昇します。火力発電に使われるLNGの価格はトンあたり6万円だったものが12万円を超えます。結果として卸電力市場の取引価格も昨年12月には26.1円まで上昇します。新電力も価格を上げて乗り切ろうとしたのですが、耐えられずにやむなく事業停止となった企業が全体の3割弱におよんだということなのです。