東京への人口流入はいまも
本格的な回復局面にはない

 このように、都心への人口流入が大きく減少し、転出超過にまで至ったきっかけとなったのはコロナ禍の発生であることに疑いの余地はない。現象としてはテレワークやオンライン授業の導入・定着が極めて大きい影響を与えている。

 コロナ禍となって3年を経過しても、依然として東京都のテレワーク導入率は23年1月発表時点で52.4%と過半を占めており(従業員数300人以上の企業では76.3%に達する)、業務効率化の課題やコミュニケーション不足などが指摘されるものの、既にテレワークという業務スタイルは首都圏においては完全に定着していると言って良いだろう。

 特に新規の人材募集、新卒採用など雇用面ではテレワーク併用であることが入社条件の前提となっているから、皮肉なことにコロナ前には一向に進展がなかった“働き方改革”も、コロナ禍で半強制的に導入が進み、そのまま定着する様相を示している。

 毎週1回、毎月数回程度の出社であれば、高い賃料を負担して移動負荷の少ない職住近接エリアに住み続ける理由は薄れる。またオンタイムもオフタイムも自宅で過ごすには業務に対応可能なワーキングスペースも確保しなければならないから、一回り広い住宅が求められるようになる。

 これまで居住していたエリアで広い物件を探せば、当然のことながら賃料も上がるので、必然的に賃料水準の低いエリアで一回り広い住宅を探すユーザーが増え、これも東京もしくは首都圏全域での賃貸ニーズの郊外化に拍車をかける結果となった。また、ロシアのウクライナ侵攻を契機とする22年春以降の消費者物価の高騰も、生活コスト全般の値上がり感を後押しして、賃貸ニーズの郊外化=低賃料化を促進することとなった。

 このような状況下では、東京都の移動人口は人口増の要因が新入学および新入社にほぼ限られる。

 22年3月の移動人口は、東京都が3万3171人(対前年比+19.3%)、東京23区では2万5840人(同+27.5%)と、前年から20%前後の増加が認められた。だが、コロナ以前は3月以降も好調な人口増を記録した移動人口も、コロナ禍の22年ではコロナ感染の拡大に呼応するように転出超過が発生し、東京23区では前年に引き続いて5月以降8カ月連続しての転出超過となっている(23年1月は9カ月ぶりに転入超過を記録した)。

 つまり、冒頭記した22年の東京都および東京23区の移動人口回復という現象は、3月に大量流入した人口がその唯一の要因である。確かに年間を通じて転入超過ではあるが、3月の“貯金”が少しずつ目減りした上での結果であり、本格的な移動人口の回復という局面には全くないことが明らかだ。

 ちなみに、東京都以外の周辺3県では、神奈川県が2万7564人、千葉県が8568人、埼玉県でも2万5364人でおのおの転入超過となり、首都圏(1都3県)では合計9万9519人の転入超過数を記録している。このことから、東京都心およびその周辺に人口が流入しているのではなく、東京市部を含めた首都圏の準近郊および郊外への流入であったことが分かる。

 しかも、19年の年間転入超過数は首都圏全域で14万8783人だったから、回復しているとはいえ、流入数自体は19年比で33.1%少ない。その意味では、首都圏での“賃貸ニーズの郊外化”現象は、コロナ禍で年を追うごとに鮮明に、そしてさらに深化・定着しているとみることができる。