答えは「感情的な人」です。
感情的になった人間が死に、冷静な人間は生き残っていました。感情的になった人間はさんざん利用されたあげく、みんな殺されてしまったのです。
北野武監督自身は、雑誌のインタビューで「拳銃を使った奴は大抵、死に至るっていうポリシーは持ってるよ」と述べているのですが、私はこの映画から、感情的になったら、その時点で負けというメッセージを受け取りました。
そして、それは私がコンサルで学んだ「最重要事項」のひとつでもあります。
冷静さを失った人の末路
私が若手のコンサルタントだったころの話です。
ある企業の「改善活動」を見に行きました。
改善活動は、部長の前で一人ひとりが「今週の報告と、来週の目標」を発表していくだけのことでしたが、役員のひとりは、この活動に対して異常なまでのこだわりがありました。
しかしそれは、活動の中身ではなく“発表するときの声”にだったのです。
社員の中には、人前で話すことが苦手な、声の小さい人も当然います。あるいは、自信なさそうに発表する人もいます。
そんな人にはその役員は「声が小さい!」と叱咤し、やり直しをさせるのです。
正直なところ、見ていて気持ちのよいものではなかったのですが、私は外部の人間でしたし、経営者がそれを許していたのだから、この儀式について止める理由もありませんでした。
ところが、あるとき役員の気に障ったひとりの新人が皆の前で「こっぴどく怒られた」とき、それを見かねたリーダークラスのひとりが、役員に対して
「もうそれくらいでいいでしょう!」
と大きな声で制したのです。
場は凍りつきましたが、その役員が「言いすぎた」と謝罪していったんは収まりました。そして、事件のあと。リーダーとその役員の間で、社長が仲裁に入って話し合いが持たれました。
社長は怒鳴ったリーダーの話に理解を示し、役員には「やりすぎである。本来の趣旨と違うはず」と反省を促しました。
しかし、社長はリーダーに対してもこう言ったのです。
「冷静さを失うとは何事だ。そのようなことではリーダーを任せられない」
社長の言う通りでした。彼は新人をかばっただけでしたが、その事件のあと、他の社員が件のリーダーを見る目が、少し変わってしまったのです。
しかも、残念ながら称賛というより、冷ややかな目でした。
「あのリーダーは、キレる人だったんだ」と皆に判断されてしまったのです。
リーダーは、正義感からあのような行動をとったのだと推測できます。「弱い人」が叱られるのを見ていられなかったのでしょう。また、前から“改善活動が無駄”と思っていたのかもしれません。でも「キレる人」には理由はどうあれ皆、近寄りたくないのです。
すぐ感情的になってしまう人はヤクザ映画では殺され、職場では信頼を失うのです。
(※本原稿は『頭のいい人が話す前に考えていること』を抜粋・再編集したものです)
ティネクト株式会社 代表取締役
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、理系研究職の道を諦め、給料が少し高いという理由でデロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。また、個人ブログとして始めた「Books&Apps」が“本質的でためになる”と話題になり、今では累計1億2000万PVを誇る知る人ぞ知るビジネスメディアに。
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