新日本酒紀行「日高見」1861年創業当時の面影を残す酒蔵の外観 Photo by Yohko Yamamoto

魚でやるなら日高見だっちゃ!すしから酒を設計する漁港の酒蔵

 すしと合う酒を徹底して目指す、宮城県石巻市の平孝酒造5代目平井孝浩さん。「魚でやるなら日高見だっちゃ!」と酒のラベルに入れ、赤身や白身に合わせた酒を造り、蔵にすしカウンターを設置するほどすしに傾倒。きっかけは石川県の蔵元に案内された金沢の名店すしとの出合い。シャリとネタの完成度の高さに心奪われ開眼するが、自分の酒がすしに合わないことも痛感。杜氏に「すしに合う酒を」と頼むと、「ネタは千差万別、人の好みは十人十色、感性の数値化を」と返答され、イメージを伝えては醸し、すし店に持ち込んでは手厳しい評価を受け、試行錯誤の末に完成させた純米の「超辛口」。赤身の繊細な酸味に合うよう糖度と酸度を低くし、アミノ酸度を調整。飲用温度帯は広く、値段は手頃で一躍人気に。

 だが、2011年の東日本大震災で、麹室と酒母室、発酵室が損壊。周囲から廃業必至と思われた。災いを転じてと、平井さんは大きな賭けに出る。莫大な設備投資を行い三季醸造の蔵に改修し、厚生施設を整えた。「億単位の借金に、腹をくくりました」と平井さん。