現代自動車の国内工場設置は
労使関係の変化への期待を反映

 現代自動車は11日、尹錫悦大統領も出席して、京畿道華城市に建設する韓国初の電気自動車(EV)専用工場の起工式を行った。同社が韓国国内に新工場を設置するのは1994年以来29年ぶりである。

 現代自動車は華城(ファソン)市のEV専用工場を皮切りに、国内外で本格的にEV企業としての体制を整えていく構えだ。韓国国内でEV分野だけで24兆ウォン(約2兆4500億円)を投資する。これによってEV生産台数を昨年の33万台から2030年には364万台に増やす。

 現代自動車が韓国にEV生産の工場を設置するのは、グローバル競争力を備えた電池メーカーが韓国国内にあり、また、長年にわたり、ハイブリッド車などの車載電子部品を下請け企業と共同で開発・生産してきたノウハウと生態系があるからである。

 現代自動車は民主労総系の強硬な労組に支配され、生産性の低さ、高い人件費、飽和した内需市場などのため、29年間国内での工場設置を見送ってきた。それにもかかわらず新工場設置を決めたのは、尹錫悦政権の民主労総を取り締まる姿勢が鮮明になったからであろう。

 尹錫悦政権は、2023年の韓国経済の重点課題として、年金・労働・教育の3大改革を挙げた。文在寅政権の下では労働組合は甘やかされ、その代表格である民主労総の主張は一層過激になっていた。

 しかし、尹錫悦政権は、輸送労働者の組合である貨物連帯が無期限ストに入った際には職務復帰命令を出すなど、強硬に対応し、スト中止に追い込んだ。また民主労総が北朝鮮のスパイの温床になっているとして捜査を強めている。

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 もともと現代自動車の労組は民主労総が主流であり、ストを頻発させ、賃上げや労働条件の改善を求めてきた。しかし、尹錫悦政権になって様相が変わってきたことが、新工場設置の決断を促したのであろう。実際、尹錫悦大統領は起工式に参加し、民主労総と対峙(たいじ)する姿勢も示した。

 尹錫悦大統領にとって、経済の再生が支持率回復の鍵である。そのためには韓国企業の国内投資を活発化させるのが第一歩である。

 支持率が回復すれば、日韓関係にもさらに前向きに取り組めるようになる。それは文在寅政権からの決別を意味することになるだろう。

(元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)