しかし、その企業活動に至った背景、例えば企業の存在意義、歴史から培った風土、目指すビジョン、独自の強みなど、企業が自らステークホルダーに優先的に伝えたいことを独自の言葉、表現で示すことこそが統合報告書ならではの意義と言える。
統合報告書を通じて
エンゲージメントの一段の強化を
冒頭で、統合報告書は企業の企業価値向上戦略を示し、ステークホルダーとの対話につなげるためのツールであると記載した。そのために、統合報告書作成時に会社、特に経営者がぜひ意識するべき事柄は以下のとおりである。
(1)トップメッセージの重要性
統合報告書において重要なのは情報の量ではなく質であるが、中でもトップメッセージは質を問われる要素の筆頭といえる。法定開示文章に記載されている作文ではなく、経営者が自らの言葉で自社の企業価値向上ストーリーと、それに対するコミットメントを語るメッセージは、多くの投資家にとって最初に読むべきページと認識されている。
統合報告書作成への経営者のコミット度合いは会社により様々だが、少なくともその後のエンゲージメントに備えるためには、「トップメッセージ」は経営トップ自らが責任者である認識を強く持つ必要がある。
(2)その企業らしさを表現する
統合報告書はあくまでも任意開示であり、個社の理念や特性を言語化して、ステークホルダーに伝えるという姿勢が必要だ。IIRC等のフレームワークや同業他社の開示事例等に過度に囚われることなく、「自分たちらしさ」をアピールしていくことが求められる。
(3)統合報告書は作成した後がより重要
上場企業と投資家のエンゲージメント(面談等)の際、投資家の多くは、統合報告書、特にトップメッセージや価値創造モデルを事前に確認している。統合報告書発行後には、そこで言及した事業の方針、その成果、課題への対応などの継続的なモニタリングが欠かせない。
統合報告書を通じて自社に関心を持ったステークホルダーにどう応えるかは、IRやサステナビリティ推進室といった担当者ではなく、経営者のその後の対応にかかっている。
(フロンティア・マネジメント コーポレート戦略部門 企業価値戦略部 ディレクター 三浦充美)