リサーチ力 最強のビジネススキル#1Photo:Bloomberg/gettyimages

後払い決済の日本発スタートアップであるPaidyを米PayPalが3000億円もの大金で買収したのが、2021年のことだ。だが、実は伊藤忠商事はその成長性にいち早く目を付け、16年から出資を始めていた。特集『リサーチ力 最強のビジネススキル』(全9回)の#1では、この「スター企業」を伊藤忠が見いだした裏側に迫る。そこには、商社ならではのリサーチネットワークがあった。

Paidyへのいち早い投資を実現させた
伊藤忠のリサーチネットワーク

「商社にとって情報は命」――。

 世界を股に掛け、資源の売り買いからベンチャー投資までさまざまな事業を抱え込むのが商社。彼らにとって情報とは、そんな多様なビジネスチャンスを生み出すために欠かせない“商売道具”の一つだと、ある商社関係者は断言する。

 実際、膨大な情報をグループで扱う商社は、“リサーチのデパート”のような存在だ。経営企画における事業立案のためのリサーチは言うに及ばず、シンクタンクにおけるマクロ経済の動向分析、海外の進出先市場の調査、M&Aのための企業調査、果てはマーケティングリサーチまで、あらゆるリサーチテクニックのオンパレードである。

 特に、世界中に張り巡らされた商社の「リサーチネットワーク」は他の企業を圧倒。それを生かし、幾つものビジネスが誕生している。

 その代表例が、伊藤忠商事による、後払い決済サービスを手掛ける日本発のスタートアップであるPaidyへの出資だ。

 Paidyは、日本でも有数の巨大ユニコーン企業だった。21年9月、米PayPalが3000億円での買収を発表するが、日本の未上場スタートアップとしては最大規模のビッグディールであることもあって、当時大きな注目を集めた。

 だが、この買収劇に先んじてPaidyに目を付け、16年7月にいち早く投資を実行していたのが、伊藤忠だ。単なる出資ではなくPaidyを軸とした金融事業の強化を計画していた伊藤忠にとって買収劇は“想定外”の出来事だったのだが、段階的に出資を重ね最終的にPaidyの株の20%超を保有していたため、この買収により伊藤忠は約300億円の売却益を手にしている。投資としては“大成功”だ。

 なぜ、いち早く未来のユニコーンに目を付けることができたのか。そこには、伊藤忠が古くから培ってきた、ベンチャー投資のためのリサーチネットワークが存在した。

 次ページでは、伊藤忠の持つリサーチ部隊の正体と、Paidy出資の裏側について解説する。