GAFAMの金融サービスへの規制が議論の的に、日本は実は先進的!?Photo:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 大手IT企業(ビッグテック)による金融関連サービスの提供が広がるなか、この動きが金融システムの効率性と安定性にどのように影響するのかが、国際的な関心を呼んでいる。本稿では、最近のBISの論文で示されている「ビッグテック向け金融規制改革のビジョン」を概観した上で、日本の金融規制の課題を整理する。

ビッグテック金融への三つの懸念

 非金融サービスと金融サービスの双方をスマートフォンアプリで提供する大手IT企業が、中国や東南アジアに相次いで登場している。米国の大手IT企業5社(GAFAM)のうちアップル、アマゾン、グーグルは小売り向け決済サービスを提供し、アマゾン、グーグル、マイクロソフトは金融機関向けクラウドコンピューティングサービスを立ち上げている。

 このように大手IT企業が金融関連サービスを提供する動きが広がる中で、金融規制の国際協調を担う国際機関である国際決済銀行(BIS)はここ数年、前述のような大手IT企業を「ビッグテック」(big techs)と呼び、ビッグテック向けの金融規制を検討する政策分析論文(以下、BIS論文)を続けて発表している(注1)。

 近年のBIS論文の概要は、次のとおりだ。ITも金融も、データもしくは情報の管理を核とするために、ビッグテックが金融関連サービスを提供することは自然な成り行きである。ただし、ビッグテックによる金融関連サービス提供の拡大には三つの懸念がある。第一の懸念は、ビッグテックの独占力の増大だ。その結果、利用者に対する不当な価格差別や割高なサービス手数料の徴収が発生する恐れがある。

 第二の懸念は、基本的人権としての利用者のプライバシー権の侵害だ。ビッグテックにさまざまな利用者データが集まると、それらを利用者の意思に反するかたちで利用しやすくなる。

 第三の懸念は、情報セキュリティーの低下とシステミックリスクの増大だ。利用者データがビッグテックに集まると、外部の侵入者にとっては、少数のビッグテックにおけるシステムのセキュリティーを破りさえすれば、大量のデータを取得できることになる。また、ビッグテックが金融システム上重要なサービスを提供する場合、ビッグテックの経営破綻が金融システム全体を不安定化させる恐れもある。例えば、多くの金融機関の勘定系システムが構築されているクラウドサービスが止まると、多数の預金者が預金を引き出せなくなり、社会全体に大きな流動性ショックを引き起こしかねない。

 こうした懸念に対して、現状の各国の金融規制では、決済、銀行、証券、保険など、それぞれの金融サービスごとの規制が置かれている。これらの規制をBIS論文は「アクティビティーベース」の規制と呼ぶ。アクティビティーベースの規制の弱点は、ビッグテックが非金融サービスと金融サービスを組み合わせて提供することを考慮していない点にある。その結果、各国政府内での金融・競争・個人情報保護の各分野における監督当局の所掌範囲が曖昧になり、規制逃れが起きやすくなる。また、ビッグテックが国境を越えてインターネット上のサービスを提供していることも、各国の規制をかけにくくしている。