この4月に「遺産分割」と「相続登記」に関するルール変更が適用された。不適切な相続によって生じる空き家や所有者不明の土地に関するトラブルを抑制しようという狙いが背景にある。今までなかった制裁金や遺産の取り分を決める際の時間制限が設けられたので、知らずにいると損するリスクが高い。相続の現場で起きているリアルな争いに触れながら、ルール変更の重要点を解説する。(イトモス研究所所長 小倉健一)
遺産分割と相続登記のルールが
4月から変更された
「――お父ちゃん、お母ちゃん ウチは結婚式あげるのあきらめるけん それで その空き家の お金を払って――!」
相続した覚えのない「空き家」の解体工事を地域住民から突然要求されたことを嘆く一家の娘は、こう語った。大人気漫画「カバチ!!!」(「カバチタレ!」第3シリーズの26巻・講談社)のワンシーンである。
この漫画のような空き家問題を抑制する趣旨を有するとも思われる「遺産分割ルール」と「相続登記ルール」の変更が、2023年4月1日から適用されることになった。今回は、これらのルール変更について、解説していく。
まず、「カバチ!!!26巻」で展開されたストーリーを簡単に振り返ってみる。
冒頭で、行政書士である主人公・田村の元へ、難解な依頼が持ち込まれることから物語はスタートする。舞台は、港に面した町。お世辞にも栄えているとはいえない地域だ。地域の自治会は、町の中にある長期間にわたって放置してある「空き家」が、地震や台風などで倒壊してしまわないか心配で、行政書士である田村へ、何とかならないかという相談を持ちかける。
ここで一番の問題となっているのは、役所に相談しても「持ち主が誰か分からない」という点だ。空き家の持ち主が亡くなってから、何十年もたっているのに、不動産登記の名義人が亡くなった人間のままになってしまっている。
名義人の相続人が誰なのかを調べるには、名義人の戸籍を調べないといけないのだが、戸籍を調べるには、本籍が分からないといけない。昔の住所が分かるだけでは、役所において現住所や本籍を調べることができないのだ。
一般論として、相続財産が多くあれば喜ぶものだが、資産価値のない家だと、相続人も関わりを持ちたくないという人が多数いる。そういう事情で名義変更をせずに放置しているという空き家は、日本中にたくさんある。
国土交通省(「所有者不明土地の実態把握の状況について」)によれば、16年度の地籍調査に基づく全国の所有者不明率は20.3%で、所有者不明の土地面積は約410万haに相当している。ちなみに九州の土地面積は368万haであり、九州より大きい面積の土地が所有者不明というのが実態だ。
前出の漫画では、偶然本籍が見つかり、相続人の現住所が判明することになる。そして、相続人の一人に解体費用を請求することになり、冒頭のセリフが出てくるという流れだ。
漫画では、相続人が解体工事の負担を拒否し続けた結果、行政代執行(行政が強制的に解体し、費用を相続人に請求すること)となってしまい、相続人が観念して費用を支払い、幕を閉じる。ちなみに、漫画では登場しないが、所有者不明のまま解体工事を行う略式代執行という行政手続きも存在する。
こうした空き家トラブルや所有者不明の土地に関するトラブルが日本中で増えている流れの中で、前述の通り、この4月に「遺産分割」と「相続登記」に関するルール変更が適用された。今までなかった制裁金や遺産の取り分を決める際の時間制限が設けられたので、知らずにいると損するリスクが高い。ルール変更の重要点を解説していこう。
そして、相続問題に詳しいある弁護士は、人気グルメ漫画「美味しんぼ」で描かれたシーンを例に挙げ、現場で起きている相続が「争族」になってうまく進まない理由を明かしてくれた。これについても見ていこう。