4月17日、米ホワイトハウスを訪問した岸田裕子首相夫人を歓迎するジル・バイデン大統領夫人[外務省提供]4月17日、米ホワイトハウスを訪問した岸田裕子首相夫人(左)を歓迎するジル・バイデン大統領夫人(手前右から2人目)[外務省提供] Photo:JIJI

G7広島サミットを前に、岸田首相夫人の裕子さんが異例の単独訪米し、注目が集まっています。ファーストレディー外交の重要性について整理すると共に、筆者が外交官時代に接遇した雅子さまの「ロイヤル版ファーストレディー外交」のエピソードや、ダイバーシティー時代に求められるファーストレディー外交の変化について解説します。(著述家/国際公共政策博士 山中俊之)

G7広島サミットで裕子夫人の
茶道のお点前が世界を魅了する

 新緑が美しい日本庭園で、岸田首相夫人の裕子さんが、各国の首脳夫人に「茶道のお点前」を披露する――。

 5月に開催するG7広島サミットでは、こんなシーンを見ることができるだろうと期待している。裕子夫人は、裏千家で20年以上のキャリアを持つ茶道家だそうだ。海外からの賓客をもてなすのに、わび・さびの精神、「和敬清寂」(互いの心を和らげて謹み敬う)の哲学を体現する茶道は、最適だろう。

 裕子夫人は、すでに4月に訪米し、バイデン大統領やジル夫人と面会した。昨年バイデン大統領訪日の際にジル夫人は同行しなかったことから、サミット前に面会の機会を作ったということだろう。首相夫人の単独訪米は異例であり、注目が集まっている。

 首相夫人という肩書は、給料が発生する公式の職名ではない。しかし、外交の現場では極めて重要な役割を果たす。それは、「ファーストレディー外交」とも評される。

首脳の決断に大きな影響を及ぼす
ファーストレディーの存在

 ファーストレディー外交の重要性について整理すると以下の通りだ。

 第一に、国同士の付き合いである外交も、突き詰めれば「人間同士の付き合い」である。夫婦同士で親しくなることで、関係が深まることが期待される。

 首脳同士の会談では、事務方であらかじめ会談内容をすり合わせている。しかし、会談が全て予定通り行くとは限らない。いや、多くの場合は予想外の発言や事態に見舞われる。その際に重要なのは、首脳同士の信頼関係、人間関係だ。本人同士だけよりも夫婦単位で付き合う方が、より親しい関係になることは間違いない。

 第二に、重大決断を下す“孤独”な国家リーダーにとって、配偶者のアドバイスは時に、大きな影響を及ぼすからだ。

 例えば、バイデン大統領が対日外交について決断を下す際に、ジル夫人が「日本の首相夫妻は本当に日米関係を重視している」と語ることで、より日本に好意的な決断になる可能性があるのだ。

 第三に、ファーストレディー外交なら、時に対立しがちな政治・外交の話題を避けて、友好的な会話に注力した外交が可能だ。

次ページ以降では、筆者が外交官時代に接遇した1994年11月、当時の皇太子・同妃殿下ご夫妻(現在の天皇・皇后両陛下)のサウジアラビア訪問における雅子さまの「ロイヤル版ファーストレディー外交」のエピソードや、ダイバーシティー時代に求められるファーストレディー外交の変化について解説します。