早大野球部・小宮山監督が
「意外な投手起用」に込めた狙い

 前日の試合後、寮に戻った小宮山は主将、副将、学生コーチの幹部を監督室に招き、飯塚の先発を告げた。「え?」という声が返った。率直な反応だろう。順当な選手起用であれば、立教2回戦の先発は鹿田泰生だ。

 ソフトバンクホークスの王貞治会長を大叔父に持つ鹿田は、現在3年生。4月17日の東大戦で先発初勝利を挙げた。なぜ、好調の鹿田を先発起用しないのか。

 小宮山監督は「普通ではないゲームなんだ」と説いた。立教戦の運営は「プロ併用日」。当日夜にプロ野球のゲームが控えるために延長なしの9回打ち切りとなる。そして2回戦は早稲田の先攻。それを考えての戦略である。

「今のウチの打線ならば少なくとも3点は取れる。だから相手に3点取られないよう、小刻みにリレーする」

 その順番も告げた。飯塚、中森光希、鹿田、田和廉、齋藤正貴、そして伊藤樹。

 飯塚を先発に置くのは、代打のタイミングを考えてのことだった。

「1回表、もし9番の飯塚に打席が回るとすれば、3点入っている。そうでなければ、2回表か3回表に代打を送り、中森にスイッチする」

 監督はそう幹部に説明した。目を丸くしていた幹部たちは、神妙にうなずくばかりだった。

 初回の早稲田の攻撃は、前述の吉納の追い込まれてからの四球で、6番野村まで回って1得点。1点のみだが、きっちりと点を取った。

 勇躍、飯塚がマウンドに上がる。しかし立教の上位打線に打ち込まれ、満塁のピンチを招いてしまう。そこをなんとか、1失点で乗り切った。3安打1四球でも飯塚は崩れなかった。そして予定通り、2回表の早稲田攻撃で飯塚に代打が送られた。

「2失点まで我慢するつもりだったので、これで勝ったと思った。飯塚はよく投げたが、もっと堂々としてほしかった。打たれたのは変化球。真っすぐで押していれば無失点だったと思う」
 
 翌日の取材で、監督は1回裏の光景を振り返った。言葉は厳しいものの、小宮山は目を細めてそう語ったのである。

 4年生投手の復活。抜擢のチャンスを物にした2年生の活躍。粘りの増した打撃陣。投打がかみ合い、早稲田はリーグ中盤戦に臨む。

「法政、明治とタフな試合が続く。このままの調子でいけるとは考えていない」

 指揮官は表情を引き締め、勢いよく立ち上がった。(敬称略)