AI時代に生き残るために必須の『デザイン思考』と筋トレの関係とは?ゴールドマン出身、AIファンドを設立したスタートアップ社長に聞くPhoto by Takashi Kitamura

ゴールドマン・サックスで株式トレーダー・金利デリバティブトレーダーを経て、人工知能ファンドを立ち上げた後、現在IT系スタートアップVISITS Technologiesを経営する松本勝氏に、DX、AI化時代に生き残る企業、ビジネスマンについて聞いた。松本氏は今年2月、自身の思考をまとめた『デザイン思考2.0 人生と仕事を変える「発想術」』を小学館新書から出版している。(聞き手・構成/フリーライター 村上 力)

日本のDXは誤解されている

――松本さんの会社では、DX人材の採用・育成支援、生産性向上サービスで、トヨタ、東京電力、パナソニック、住友商事などの多くの大企業と取引実績がありますが、昨今の日本企業のDXについてどう評価していらっしゃいますか。

 日本ではDXが大きく誤解されています。分かりやすい話で言うと、多くの企業はデジタル化やツールの導入によって、利益ベースの効率化を図ることだと考えています。つまりは、損益のボトムラインと変えていくと。

 しかし、DXは本来、トップラインである売り上げのほうをダイナミックに変えていくビジネスモデルの再構築のことをいいます。

 例えばUberは、デジタル化によって顧客体験そのものが変わったわけです。今までは、タクシーを呼ぶには手を挙げて拾わなくてはいけなかったものが、Uberの出現によってアプリを使ってピンを刺したらすぐに呼べるようになった。かつ、決済も自動化されて、いちいち現金やカードで支払いを済まさずに、すぐに下車できるようになった。

 しかもUberは世界最大のタクシー会社でありながら、1台もタクシーを持っていません。今まで、タクシー会社は、何台タクシーを保有しているかがKPIの一つだったけれども、Uberはそうしたビジネスモデルを転換させたわけです。

 Airbnbも、今までホテル事業は客室を何部屋持っているかが重要なKPIでしたが、デジタル化によってホテルを保有していなくても、ホテル事業を行えるようになった。これぐらい新しい顧客体験、ビジネスモデルの変革がないと、真のDXとはいえないんです。

 しかし、日本でDXは、デジタルツールの導入だとか、業務を外注化したとか、利益率を良くするほうばかりに関心が向いている。それは、DXのうちの「D」だけを達成したことにしかならない。

 なぜDXを勘違いする企業が多いかというと、私は、企業に「デザイン思考」が抜けているからだと考えています。「よしDXするぞ!」と言って、みんな社員にプログラミングやデータ分析を勉強させようとする。これでは、全然新しいビジネスモデルが出てこない。

 データを活用して、いかに顧客の新たなニーズを発掘して、新しいソリューションを考えるか、創造するかという、デザイン思考が抜けているんです。この数十年間のうちに、アメリカでGoogleやAmazonなどの巨大IT企業が生まれてきたのに、日本がイノベーションで立ち遅れているのも、デザイン思考の欠如が理由ではないでしょうか。