仕事へのモチベーションは年齢を重ねるほど低下するうえ、収入や栄誉を追い求めていると、いつかはキャリアに行き詰まるだろう。70歳以降の就労も珍しくない昨今、長く働くには定年前に価値観の転換が求められる。
働くモチベーションは
年齢とともに変化
「シニアの就労実態調査」では、働くうえで大切にしている考え方をスーパーの尺度をもとに計29の価値観としてまとめている。同調査ではこの29の価値観それぞれについて、重要と思うか、そうでないかを5つの選択肢から選んでもらう5件法で尋ねており、そのデータをもとに因子分析を行っている。
因子分析の結果によると、現代の日本人が働く上で感じる価値観は大きく6つに分類できる。すなわち、「他者への貢献」「生活との調和」「仕事からの体験」「能力の発揮」「体を動かすこと」「高い収入や栄誉」である。多くの人にとって、これらの要素が働く上でのモチベーションになっている。
ここで、6つの価値観について考えてみよう。
まず、「他者への貢献」である。この価値観は、「人の役に立てること」「社会の役に立つこと」などで構成されている。仕事で直接やり取りをする顧客に限らず、社内外問わず、身近な他者に対して貢献したいという思いを持つ人は、定年後に増える。
人の役に立つという考え方は、まさに仕事の本質となる考え方である。たとえば、仕事を通じて能力を高めることは好ましいことである。しかし、仮に誰もが羨むようなすばらしいキャリアを歩んでいる人がいたとしても、その仕事が人の役に立たないものであれば、その仕事には趣味の一環としての意義があったとしても、仕事としての意味はないと思う。逆に、たとえ人に見向きもされないような仕事であっても、それが確かに誰かの役に立っているのであれば、私はその仕事にスポットライトを当てたい。
仕事とは本来、誰かのためになる行為のはずである。
しかし、定年前の人にとって、そうした意識は低い。よりよいキャリアを築きたい。高い収入を得て家族に良い思いをさせたい。定年前の人は自分や家族のために働いているという意識が強い。もちろん、それ自体は悪いことではない。そうした意識を通じて結果的に社会に貢献できているのであればそれはそれでいいだろう。
これに対し、定年後の就業者の多くは、直接的に誰かのために働くということを大事にしている傾向がある。仕事を通じて人や社会に貢献し、彼らを喜ばせ幸福にする。歳を重ねた就業者は、自らの経験からこうした仕事本来の意義づけ、意味づけを自然に行うことができるようになっている。