GX(グリーントランスフォーメーション)推進法が国会で成立した。脱炭素社会の実現に向けた重要な一里塚ではあるが、国民の理解は追いついているのか。長期連載『エネルギー動乱』では、GX分野の専門家が、世界的な金融不安や米国の反ESGの動きと絡め、見通しを解説する。
消費税率や防衛費の議論と比べ
意外とすんなりと可決?
グローバル全体でエネルギー市場は混乱の渦中にある。数年前から資源価格が高騰し、そこにウクライナ情勢の影響から地球規模のエネルギー資源争奪戦が発生した。これが供給を引き締めてさらなる価格高騰を招来し、世界経済にインフレの暗い影を落としている。
オイルショックから半世紀が過ぎ、風化しかけていたエネルギー安全保障の重要性に改めてスポットが当てられている。1次エネルギーに乏しい日本において、半世紀にわたる先人たちの努力が水泡に帰すような状況にあることをやり切れない思いで見つめるエネルギー業界人は多い。
そのような状況のなか、GX(グリーントランスフォーメーション)推進法が成立した。もちろんこの法律名は略称で、正式名称は「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」である。政府の「GX実現に向けた基本方針」を具現化することが目的だ。
2050年カーボンニュートラル達成等に向けた取り組みとはいえ、これまで経済界がなかなか認めなかったカーボンプライシング(CP)の導入や、調達や使途に関して疑問の多いGX経済移行債(脱炭素成長型経済構造移行債)発行などが意外にすんなりと決まってしまった。
23年度予算案において、消費税率や防衛費に対して多くの議論を呼んだ一方で、それらを上回る国民負担となる可能性があるにもかかわらず紛糾しなかったのは、単なるフロック(まぐれあたり)なのか。
GXという言葉の認知度が低い可能性もあるが、より本質的なことはこの問題への多角的な理解が乏しいことではないか。