エネルギー動乱Photo:wmaster890/gettyimages

NTTグループで電力事業を担うNTTアノードエナジーと国内最大の発電事業者であるJERAは、大手再生可能エネルギー企業のグリーンパワーインベストメントを3000億円規模で買収した。国内の再エネ企業の買収額としては、史上最大規模のディールとなった。長期連載『エネルギー動乱』では、その巨額買収劇の舞台裏をつまびらかにし、次なる大型買収のターゲットといわれる企業の実名も明らかにする。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

再エネ企業で史上最高額ディール
業界関係者「常軌を逸したグリーンバブル」

 日経平均株価がバブル経済崩壊後の高値に迫る3万0600円を上回り株式市場が沸いた5月18日、再生可能エネルギー企業を巡る国内史上最大の買収が明らかとなり、エネルギー業界は騒然とした。

「常軌を逸したグリーンバブルだ」。あるエネルギー業界関係者は、唾棄するように言い放った。

 通信業界の頂点に君臨するNTTグループの子会社で電力事業を担うNTTアノードエナジーと国内最大の発電事業者であるJERAが3000億円規模で買収したグリーンパワーインベストメント(GPI)は、2004年創業の大手再エネ専業企業だ。NTTアノードが8割、JERAが2割を出資して買収する。

 GPIの22年12月期の売上高は83億円、純利益は11億円。純資産は約218億円で、買収額から純資産を引いたのれん代は、少なくとも2700億円を超える。同日に会見した伊藤浩司・NTTアノード副社長執行役員は「第三者の意見を入れながら価値をはじいた。決して高値つかみではない」と主張した。

 冒頭のエネルギー業界関係者が「常軌を逸したグリーンバブル」とやゆするのには、訳があった。ここ数年続く再エネ企業の大型買収においても、GPIの買収額は“異例”の規模なのだ。

 再エネ企業を巡る買収として、これまで史上最高額だったのは、石油元売り最大手のENEOSホールディングスが21年10月に買収方針を発表した再エネ専業企業のジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)。ENEOSは、JREを約1910億円で買収している。このときも、エネルギー業界では「この買収額はとても正当化できない」との見方が大勢を占めていた。

 JREの当時の売上高は224億円、最終損益は9億1200万円の赤字だった。太陽光、陸上風力、バイオマスといった再エネ発電所を有し、建設中のものも含めると、JREは当時、大型火力発電所1基分に相当する総出力約88万キロワットの再エネ発電所を保有していた。

 これに対し、GPIは太陽光と陸上風力を合わせた総出力約34万キロワットの再エネ発電所を稼働させている。建設中のプロジェクトを含めても、総出力は約53万キロワットにとどまる。

 当時ですら「常識はずれ」と指摘されたJREよりも、GPIは企業業績も再エネ発電所の容量も下回るにもかかわらず、買収額は史上最高となったのだ。

 GPIの争奪戦は、NTTアノード・JERA連合をはじめ、投資ファンドやエネルギー企業も参戦して、その熾烈さを極めた。

 次ページからは、GPI争奪戦に参戦した企業の顔触れを紹介するほか、NTTアノード・JERA連合が最高額で競り落とすことになった戦いの全内幕を明らかにする。「高値つかみ」とやゆされるほどの巨額買収に、 NTTアノードとJERAが「絶対に負けられない」とばかりに突き進んだ事情も徹底解説する。また、GPIの「次の出物」といわれ、大型買収の対象として浮上する再エネ企業の実名も明らかにしていく。