「幸福」を3つの資本をもとに定義した前著『幸福の「資本」論』からパワーアップ。3つの資本に“合理性”の横軸を加味して、人生の成功について追求した橘玲氏の最新刊『シンプルで合理的な人生設計』が話題だ。“自由に生きるためには人生の土台を合理的に設計せよ”と語る著者・橘玲氏の人生設計論の一部をご紹介しよう!
旧石器時代のこころでアスファルトジャングルを生きる
直観はものすごく役に立つが、これまでと異なるパターン(過去に経験したことのない出来事)と遭遇すると問題が生じる。そんなときでもなんらかの選択(判断)をしなくてはならないが、参照できる基準がないために系統的なエラーが起きる。これが「バイアス」だ。
もっとも、人類が進化の大半を過ごした旧石器時代の狩猟採集生活では、こうした「異常事態」との遭遇はそれほど頻繁には起きなかったはずだ。捕食動物に襲われたり、敵が襲撃してきたりする危機に人生のなかで何度も遭遇したし、大雨や洪水、飢饉や疫病に苦しむこともあっただろうが、これらはいずれも共同体(部族)の歴史のなかで語り継がれ、どのように対処すればいいのかの知恵が授けられたはずだ。
農耕社会になっても、春に種を蒔き秋に収穫する繰り返しによって、それぞれの地方や作物に合わせた文化がつくられていった。論理的に考えたりしなくても、直観に従い、共同体の掟や慣習に合わせることで、人生の大半の問題は解決できたのだ。
ところが産業革命を機に社会はとてつもなくゆたかになり、第二次世界大戦後は大国同士の戦争はできなくなって(核戦争になれば人類は滅亡する)、わたしたちは長い平和を享受するようになった。科学技術(テクノロジー)の急速な発展やグローバル化の影響もあり、社会はどんどん複雑になっている。
ヒトにとっての進化適応環境は数百万年の旧石器時代で、ヒトの脳はそこで生存・生殖の可能性を最大化できるように進化・設計されてきた。
問題なのは、現代文明の環境が旧石器時代(進化適応環境)と大きく異なっていることだ。ところが生き物(遺伝子)はきわめてゆっくりとしか進化しないので、急激な環境の変化に素早く適応できない。ヒトは脳の高度な機能をきわめてうまく使っているが、それでも「旧石器時代の心でアスファルトジャングルを生きる」ことでさまざまな齟齬が生じている。
それに加えて近代の知識社会では、理屈(ロジック)によって社会のルールがつくられ、それにどれだけ適応できるかで個人が評価されるようになった。こうして論理的合理性(理性)が支配的になったことで、進化的合理性(直観)との差が「バイアス」として意識されるようになったのだ。
※この記事は、書籍『シンプルで合理的な人生設計』の一部を抜粋・編集して公開しています。
作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)。毎週木曜日にメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」を配信。