認知症の症状にはさまざまなタイプがあり、タイプによっては人格が豹変して周りの人へ攻撃的に当たるようになり、状況次第では精神科病院への入院も必要になる。ある日、老父の暴力や暴言に悩まされる息子からSOSの電話がかかってきた。(百寿コンシェルジュ協会理事長、社会福祉士 山崎 宏)
「ピック病」と「レビー」は、認知症でも特に大変
筆者が運営する24時間365日電話対応の終活相談サービス『お困りごとホットライン』には、年老いた親の介護に悩む人たちからのSOSが多く寄せられる。前頭側頭型認知症(俗称:ピック病)とレビー小体型認知症(俗称:レビー)。認知症の中でも厄介とされるのがこの二つで、その攻撃性は常に家族を苦しめる。今回の相談事例は、都内で独居する吉村勉三さん(94歳)の長男・吉村健太郎さん(60歳)からで、高齢の父親を何とか早期に介護施設に入れたいというものだった。
1年半ほど前にレビーと診断された父親は、昨秋くらいから歩行困難となった。トイレに行くのもままならず、玄関まで異臭が漂っているほど不衛生な状態なのだが、施設に入れようにも本人の抵抗がすさまじい。賢太郎さんと妹の千鶴さん(57歳)のみならず、定期的に安否確認に訪れる地域包括支援センターの相談員に対して暴言暴力を振るい、手が付けられない状況だという。
電話を受けた『お困りごとホットライン』のスタッフは、まずは入院治療で問題となる言動を落ち着かせた上で、条件に見合う施設を探してはどうかと提案し、入院の受け入れ先を確保する方法として、都道府県の精神科救急受付窓口(東京都の場合、「ひまわり」)と、父親の住民票がある目黒区の認知症疾患医療センター(国家公務員共済組合連合会 三宿病院)の電話番号を案内したのだが…。
精神科救急インフラは、悩める家族を助けてくれない
しばらくして、再び健太郎さんから連絡が入った。まず東京都の精神科救急受付窓口「ひまわり」は、何十回とトライしても電話がつながらない。ようやくつながったと思ったら、「今現在、まさに暴れていてどうにもならない場合でないと優先順位が低くならざるを得ない。レビーと診断されているのであれば、お住まいの市区町村の認知症疾患医療センターに当たってください」と体よく断られた。目黒区の管轄である三宿病院に電話をかけると、「当院では、診断はするが治療はできない」とけんもほろろだった。
こうなってしまうと、残された手は、都内にある精神科病院に逐一電話して、事情を話して、入院の受け入れをお願いする方法しかない。困り果てて電話しているにもかかわらず、話したい相手になかなかたどりつけないことにフラストレーションがたまったのだろう。健太郎さんは、「お金なら払う、受け入れてくれる病院を探してくれ!」と叫んだのだった。