自動車部品メーカーに学んだ
銀行業務の「基本動作」
「マイナンバー、受け付けました。明日、発送するので保管をお願いします」
マイナンバーという単語が聞こえて、やりかけの報告作業の手を止めた。
「はい、お疲れさま」
窓口担当が、お客のマイナンバーカードの写しを挟んだファイルを手渡す。私の課では、重要物件を渡すときには、渡す人の手からもらう人の手へ、直接やりとりする。さらに、
「お願いします」
「わかりました」
これらの言葉のキャッチボールを添える。この、一見面倒な手間をわざわざかけることで、重要な書類に神経が注がれる。紛失や廃棄といった情報漏洩(ろうえい)につながる事故を減らすことができる、というのが私の持論だ。
やって当たり前の行動を我が行では「基本動作」という。基本動作は、緊張感がなくなり、面倒だと感じることで、いとも簡単に省かれてしまう。そして、その多くは事故につながる原因となる。
この基本動作は、私だけが特別やらせているものではない。若い頃、得意先として担当していた自動車部品メーカーの工場を見学させてもらったときに、製造ラインの工員がひとつひとつの動きを指でさし、声に出して確認しているのを見て、これこそ日本のものづくりの原点だと感心したのを覚えている。こうしたひとつひとつの基本動作を、バカにせず守り続けた先に、優れた品質が生まれ評価される。
私の担当する「事務」という作業は正確に処理されて当然であり、製造業の組み立てラインの役割と非常に似ていると感じる。これもまた、銀行員の半生で営業と事務の両方を経験できたからこそ、わかったことなのかもしれない。
今、思い出した。私は家の中でもうっかり指さし確認をしてしまう。机の鍵が閉まっているかなど、いちいち指さしてしまうのである。私の元同僚も転職先で似たようなことをして、自分たちが机の中を探るとでも思っているのかと、新しい同僚から嫌がられたそうだ。