近年、「頭の回転の速さの象徴」としてお笑い芸人が多くの場面で活躍をしている。そんなあらゆるジャンルで活躍をし続けるお笑い芸人たちをこれまで30年間指導し、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも話題になった伝説のお笑い講師・本多正識氏による1秒で答えをつくる力 お笑い芸人が学ぶ「切り返し」のプロになる48の技術』が発刊された。ナインティナインや中川家、キングコング、かまいたちなど今をときめく芸人たちがその門を叩いてきた「NSC(吉本総合芸能学院)」で本多氏が教えてきた内容をビジネスパーソン向けにアレンジした『1秒で答えをつくる力 お笑い芸人が学ぶ「切り返し」のプロになる48の技術』より、本文の一部をもとに仕事に関する本多氏の考え方をお届けする。

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「印象に残る人」と「すぐに忘れられる人」のたった1つの差

 営業であれ、新人社員の挨拶であれ、大事なプレゼンであれ、仕事をしていると社内外かかわらず、はじめましての人と挨拶をする「初対面」の場面があるかと思います。今回はその初対面のときに大事になる「名前」に関する話です。

 誰もが名前を持っています。私で言うと「本多正識(ホンダマサノリ)」です。この名前を私は人生で何度も口に出してきました。皆さんも自己紹介、日常会話のなか、プレゼンの前、営業での名刺交換など、数えきれないほど、自分の名前を言ってきたと思います。そのときに、皆さんは自分の名前を相手に完璧に伝えることができているでしょうか。ボソボソ喋ってしまったり、早口で言ってしまって、聞き直された経験はあるのではないでしょうか。

 ビジネスパーソン向けの講演であれ、NSC(お笑い養成所)の授業であれ、「名前ははっきり言うように」と必ず言うようにしています。レベルの低いことのように思うかもしれませんが、実はきちんとできている人は少なく、逆に完璧に名前を伝えることができている人はそれぞれのジャンルで活躍している人が多い印象です。

 NSCの授業では、ネタ見せの冒頭で、「〇〇です」というような形でコンビ名や芸名を言うことになっているのですが、養成所に入りたての芸人のネタを見る際は、ほとんどの場合、名前を聞き取ることができません。

 これはやる気がないのではなく、おそらく自分では言えているつもりなのでしょう。しかし、聞いている側にはまったく聞き取れないのです。

 これには理由があります。それは「自分の名前を言い慣れてしまっている」からです。何も考えずにスラスラと言えてしまう名前だからこそ、ついなんの工夫もなく言ってしまうのでしょう。

 ですが、自分の名前というのは自分が言い慣れているだけで、相手にとっては常に初めてのものです。そのため、自分が何気なく言った名前を相手は聞き取れていないということがよくあります。特に冬などマスクで口元が隠れるときはより一層名前が聞き取りづらくなります。

 名前は自分にとっての一番のブランドであり、看板となるものです。名前を覚えてもらえないようではどんなにいい仕事をしても効果的とは言えません。芸人を例に出すとどんなに面白いネタをしても、お客さんに「そういえば、あの面白かった芸人名前なんだっけ?」と思われてしまったらリピートはないからです。

 これはビジネスの世界でも同じかと思います。営業であれプレゼンであれ、内容と同時にみなさんの名前を覚えてもらうことで、「またあの人にお願いしよう」とはじめて思ってもらえるのではないでしょうか。こんな単純なことで得も損もするわけですから気をつけないともったいないでしょう。

 ちなみにかつての教え子で名前が聞き取れなくて何度も指導したコンビがいました。