「費用総額の決定」がマーケティング業務だと誤解される理由

 このように、マーケティング業務は通常、上の層から割り振られた一定の費用の使い方を決め、それを実行していくという側面を持っています。
 ただし、ここでややこしいのが「使い方を決める」ことそれ自体が、さらに下の階層への「費用の割り振り」でもあるということです。その意味で言うと、「下の階層に対するマーケティング費用の割り振り」それ自体も、ある種の「マーケティング」だと言えなくもありません。

 よく「マーケティングこそ経営である」というようなことを言う人がいます。これがどういうつもりの発言なのか、筆者は定かにはわかりかねるのですが、「経常利益の最大化を目標にしたマーケティング費用の割り振り」という意味では、たしかに経営者もまた、この意味でもマーケティングをしていることにはなるでしょう。

 また、組織階層がそれほど整っていない中小企業などではとくに典型的ですが、いくつかのレイヤーの業務を一人が兼任しているケースもあります。その場合は当然、自分で費用総額を決めて、そのあとに割り振りを決めることになります。

 こうした事情があるため、多くの人が「マーケティング費用総額の決定」もまた、マーケターの仕事であると考えてしまっているのではないでしょうか。

 しかし、原則論から言えば「トータルでいくら使っていいのか」を決めることはマーケティングの領域にはなく、あくまでも許された費用総額のなかで「なににいくらを割り振るのか」を考える行為だということになります。これが定義における「一定の費用の下で」の意味です。