トレンドが激しく移り変わるいま、時代に左右されない「モノが売れる原理」が必要とされている。そんなマーケティングの「そもそも論」を徹底的に掘り下げたのが、博報堂やボストン コンサルティング グループで活躍してきた津田久資氏による最新刊『新マーケティング原論』だ。
「マーケティングを科学する第一歩」(冨山和彦氏)、「これこそ『クリティカルに考える』ということ」(デービッド・アトキンソン氏)など各氏の称賛を集める同書では、4Pや3C、ブルーオーシャン戦略や破壊的イノベーション戦略など、おなじみのツールや理論が「そもそもなぜ有効なのか?」という部分も含めて、きわめてわかりやすく解説されている。まさに「考えるマーケター」のための教科書だ。
本稿では、同書より一部を抜粋・編集し、「いいアイデアを考えられる人とそうでない人の決定的な差」をご紹介する。

やるべき仕事を見つけるのが「上手い人」と「下手な人」、たった1つの差Photo: Adobe Stock

いい行動案を生み出す2段階プロセス
──発散と収束

 マーケターにはみずからの頭を使って「とるべき行動」を考えることが要求されます。ここでどれだけ「いい行動案」を発想できるかが、マーケターの勝負になってくるわけです。

 今回はこの点をもう少し掘り下げてみましょう。

 さて、どんなプロセスを踏めば、より質の高い行動案を発想することができるでしょうか? ここには2段階のプロセスがあります。

 ① 行動案を「できるかぎりたくさん」考える(発散)
 ② それらの行動に「優先順位」をつける(収束)

 少し説明を加えましょう。まず①についてですが、ここでいう行動案とは、マイナスの結果をもたらさない行動のアイデアすべてを指します。やらないよりはやったほうがいい行動案は、複数考え得るはずです。そのなかには、いかにも効果が出そうなものから、陳腐でいまひとつなものまで、一定の質的な差が含まれるでしょう。

 しかし、この段階で大事なのは、行動案の「量」、より正確に言うなら「多様性」です。案の数が多ければ多いほど(発想の範囲が広ければ広いほど)、よりよい案が生まれてくるはずです。しかし、もちろん量が多くても、その種類が多様でなければ、意味がありません。

 一方、マーケティングが企業活動の1つであるかぎり、すべての可能な行動を実行に移すことはできません。企業の資源(ヒト・モノ・カネ)には限りがあるからです。よって、複数の行動案のなかから最適なものを選ぶ必要が出てきます。

 そのときに避けて通れないのが②の「優先順位づけ」です。行動案のなかに順序をつけることで、まず手をつけるべき最適な行動(またはその組み合わせ)が決定するのです。

 この2段階は、それぞれ「①発散」と「②収束」に該当します。マーケティングには「考えること」が要求される以上、このようなプロセスと不可分です。

だれもが「よく考えました」と言う

「発散→収束」という2段階のプロセスはもちろん両方大事なのですが、強いて言えば、発散のほうがより重要です。

「A/B/C/D/E」にまでアイデアを広げられた人は「E」に絞り込める可能性はありますが、発散が「A/B/C」までで止まってしまった人は、「E」という行動を選び取れる可能性はゼロになってしまうからです。

やるべき仕事を見つけるのが「上手い人」と「下手な人」、たった1つの差

 まさに「発散なくして収束なし」です。

 そして、この発散こそがじつはすごく難しい……。凡人が単なるブレストや思いつきだけで発想を広げようとすると、必ず「壁」にぶつかります。そして、なによりも厄介なのは、本人が「壁」にぶつかっていることに気づけないことです。ぜんぜん発想が広がっていないのに、「自分は十分に広く考えた」と思い込んでしまうのです。