税務は企業価値向上につながる戦略的仕事
ニコンでは、2022年、取締役会で「グローバル・タックス・ポリシー」として、(1)適正な税務申告による企業価値の向上、(2)税務コンプライアンスの遵守、(3)税務恩典の活用および租税回避の排除、(4)移転価格課税などの二重課税の防止、(5)税務当局との良好な関係の構築、の5項目に関する方針を定め、対外公表しました。
また、どの政府にいくら納税しているかについて、グローバルな地域別納税額をサステナビリティ報告書上で毎年開示しています。
日本企業は、長年、税金を当然払うべきものであると考えてきました。納税しない企業は社会的責任を果たしていないと罪の意識さえ感じていたのです。日本の株主も、企業が税金を支払うことを望んでいます。もっと言えば、税引後利益が減っても構わないから、企業たるもの税金を支払うべし、という考えを持っている個人株主が多数います。
そのことを思い知ったのが、日本武道館に数千名の個人株主を集めて開かれていた三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の株主総会での経験です。私が財務企画部長だった頃、不良債権処理などに伴って巨額の欠損金が発生し、税法上、課税所得が発生しなかったため、数年間、税金がゼロになった時期がありました。
これに対して、個人株主から、「いつになったら税金を支払うのか?」「なぜ、払わないのか?」と批判めいた質問がなされるのが、毎年恒例だったのです。
その期間中は、無税の分だけ税引後利益やROEがかさ上げされていたわけですが、利益が増えて株主価値が増大していることについて、経営者が株主に「申し訳ありません」と説明する、という事態が生じたのです。欧米の投資家には理解できないであろう事象を私は実際に体験してきました。
このように、日本においては、「お上」に税金を納めることが絶対的「善」であり、節税はどこかやましいもの、という風潮が根強く残っています。
税務の複雑性と相まって、日本企業では社長など経営陣だけでなく、経理・財務担当役員ですら、「税務」業務を申告納税義務を果たすためだけの機能ととらえてきた側面があることは事実でしょう。
一方、日本企業の競争相手である欧米企業は「税はコストであり管理可能なもの」であるという意識を強く持っており、「税務」を、税引後利益やフリー・キャッシュフローを増加させる「価値創造機能」ととらえています。
日本企業が、税制優遇などを十分に活用せず不必要な税コストを日本国以外の政府に支払えば、その分、将来の企業成長のための設備投資や研究開発費、M&Aなどに回せる原資は減ってしまいます。
日本企業の国際競争力の向上という観点からも、税コストを最適化することやライバルの欧米企業並みの税務プランニングを検討することが必要なのです。
※この記事は、書籍『CFO思考』の一部を抜粋・編集して公開しています。