明治の3季連続優勝で幕を閉じた東京六大学野球・春季リーグ戦。戦力充実で臨んだはずの早稲田大学野球部は4位に終わった。最後を飾る伝統の早慶戦、1回戦は5-3で早稲田、2回戦は1-15で慶応、そして3回戦は0-1で慶応の勝ち。早稲田大・小宮山悟監督は2回戦の大敗を受けて「はらわたが煮えくり返るよう」と怒りを隠さなかった。だが、その一方で“収穫”もあったという――。(作家 須藤靖貴)
伝統の早慶戦で
「1対15」の記録的大敗
ある先輩作家はこう語る。
「スポーツは現場で観てこそ。ライブでしか分からないことは多い」
彼は土日、まず家におらず、平日でもどこかへ出かける。地方にも腰軽く赴く。いったい、いつ机に向かうのかは謎だが、スポーツ現場主義は私も深くうなずくところである。
コロナ禍の暗雲がようやく晴れ、東京六大学野球リーグ戦も賑やかになった。応援部の躍動感は現場に居てこそ。意気上がる鼓舞、バスドラムの力強いビート、好プレーに沸く歓声、拍手。精妙な投球がボールと判定された時に観客は一斉に唸(うな)る。この一体感。球審がオーケストラの指揮者にも思えてくる。それらは現場に身を置かなければ決して味わえないことだ。
そこで、5月28日の日曜日に行われた早慶戦2回戦である。
1-15。早稲田、記録的大敗。14点差は早慶戦史上最多だ。18安打12四死球と、早稲田投手陣が崩れた。
試合後の取材で、小宮山監督は「大変、申し訳ない」と頭を下げた。神宮球場に足を運んだ早稲田ファン、そして慶応ファンへの謝罪である。特に四球の多さについて。「ストライクの入らない投手ほど、相手に失礼なことはない」と。
たとえ明治の優勝が決まってはいても、早慶戦は特別である。小宮山は早慶戦への敬意をよく口にする。「そんな練習態度では、慶応に失礼だろう」と。小宮山の監督就任当初のことだ。秋の慶応戦前の練習で4年生幹部の一人が鼻を啜(すす)っていた。「早慶戦を前に風邪をひく神経が分からない」。その太い眉をひそめたものだった。