あるいは、要約を続けていくと、文章の構成のあり方を身につけることができます。文章の書き手は、自らの言いたいことを伝えて読み手を説得するために、いろいろな構成を用いて文章を組み立てます。〈因果〉〈対比〉〈言い換え〉〈具体→抽象〉などのつながりは、そうした構成の典型的な例なのですね。ですから、要約を通じ、読者を説得するうえで効果的な文章の構成を身につけることができた人は、当然、自分が文章を書くのもうまくなる。あるいは、スピーチなども、効果的に組み立てることができるようになる。これは、社会を生きていくうえで、非常に大切なスキルとなるはずです。
そして、要約の作成は、皆さんの表現力を鍛えてもくれます。要約には本文の記述を拾い、それをツギハギしていく方法が多くとられますが、その際、表現に自分なりの修正を加えないと、日本語としてうまくつながらないことがあります。あるいは、冗長な文を、自分の持っている語彙でコンパクトに言い換えたりする作業も必要になったりします。このような作業をするなかで、自分の言いたいことを他者に伝えるうえでとても大切な能力、すなわち表現力が向上していくわけですね。
このように、要約には様々なメリットがあります。他にも多々挙げることはできます。
けれども、ここで強調したいのは、上に述べてきたことではないのですね。とするならば、ここで皆さんにお伝えしたい要約のメリットとは、いったいどのようなものなのか。
文章を要約することは、その文章の書き手の考え方を自らの知識として所有することに等しい。そしてもちろん、そうした知識もまた、文章を読むうえでの重要な<思考の軸>となる。
つまり、これまでに読んできた文章、あるいはそこで述べられる考え方や主張を自らの知識として活用しながら、目の前の文章から、より深く多角的に情報やメッセージ、論点を引き出すことができる。もしくは、自分の意見を考えることができる。だからこそ、要約というのは、文章の読解においてすこぶる意義のある実践であると言えるわけです。
大人にとっても必要だった学生時代のスキル
というわけですから、皆さんには、可能なかぎり、要約というものに時間を費やしてほしいんですね。電車のなかでスマホをいじりながら、というのは難しいかもしれません(私はけっこうやりますが)ので、机に向かってじっくり文章と格闘しながら、読んだ内容をギュッとまとめるという時間を、ぜひ、定期的に作っていただきたい。
皆さんが要約に励むべき理由は、「大人の要約力」というコンセプトにおいては、何より「文章を読む際に参照する<思考の軸>としての、考え方・知識」を体得する、というところにあります。である以上、作成した要約は、様々な文章の読解に応用できるよう扱いやすい性質を持っていると嬉しい。
では、どのような要約であるならば、そうした用途に用いやすいか。